ついででもいい

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ついででもいい

 タリーズで待ち合わせた坪山さんは、コンビニのビニール袋から小さな紙袋入りの箱を取り出した。 「これ、ホワイトデー。お返しは要らないって言ってたけどお世話になってるのはお互いさま。可愛いのを見つけたからさ。僕は彼女にセンスを酷評されるレベルだから不安だけど」  セブンイレブンで売っている、ボノワール京都の桜と葉のショコラだ。最近よくセブンで見かける。義理チョコでお返しは要らないなんて言ったのに用意してくれた。彼女に数珠みたいなブレスレットをプレゼントして怒られた坪山さんにしては、すごくセンスがいい。なんか怪しいなぁ、これ坪山さんが選んだのかな? 「ありがとうございます。この桜と葉のショコラ、セブンで見かけていいなって思ってたんです。もしかして坪山さん、彼女さんに選ぶの手伝って貰いました?ホワイトデー選びも一緒って、もう夫婦ノリでラブラブですね」 目一杯の笑顔を作ってブラフをかけてみる。 「え?なんでわかるの?僕はコンビニ限定のGODIVAのクッキーの方が有名だしいいんじゃないかなって言ったけど、彼女がさ、こういう可愛い形のお菓子の方が女の子は好きだよきっとって教えてくれたんだ」 「わー、やっぱり。数珠ブレスレットで彼女さんを怒らせる坪山にしてはセンス良いなって」 「どうせ僕はセンス皆無だよ。あんまりからかうといじけるからね。彼女へのホワイトデーを一緒に買いに行って、ご所望の物を買ったらさ。他にバレンタイン貰ってない?お返し買いに行こうかって彼女が行ってくれてさ。職場の渡辺さんと蛯沢の分はコンビニ限定のGODIVAのクッキーにして。彼女に野島さんの年齢を言ったら、絶対このショコラの方がいいって」  彼女さん凄いな…。若い女の子ならこういう可愛い方が好きって気を遣ってくれる。ヤキモチとか焼かないでちゃんと選んでくれた。勝ち目ゼロだなぁ、もう。 「素敵な彼女さんですね、お幸せに」  顔の筋肉がひきつりそうなほど頑張って無理して笑った。納品を済ませてタリーズで解散して、私はとぼとぼとバス停に向かって歩く。3月なのにまだまだ寒い。彼女さんへのホワイトデーを買いに行くついでだったみたいだけど、お返しを貰えただけヨシとしよう。心の中に沢山の現場猫を浮かべて、ヨシ!ヨシ!ヨシ!ヨシ!って何度も言ってみる。ヨシ!と指差し確認したそばから、工事現場の足場がガラガラと崩れる絵が浮かぶ。近寄る足場すらないじゃん。坪山さんと彼女さんがお似合い過ぎて。
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