新しい生活、新しいバイト

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新しい生活、新しいバイト

 「野島さん、何やってんの!それ単品!」 キッチンのベテラン浜松初子さんに叱られた。定食セットだと思ってご飯とお味噌汁をよそっていたら、唐揚げは単品だった。 「野島さん、それこっちに。3卓、お一人様のしょうが焼き定食、先に出しちゃおう」 同年代のアルバイトの酒井君が提供の順番を変えてフォローしてくれた。私は通信大学に通いながら近所のファミレスでアルバイトを始めた。ファーストフードよりやることや覚えるそとが多い。ファーストフードより時給がいいのと、通勤時間が短い。  酒井君とはよくシフトが一緒になる。酒井君はIT系を学んでいで、高校は普通に昼間部を出て大学から私立の通信制にしたそうだ。国公立大学に落ちたら問答無用で働けと親に突き放されたらしい。 「教科書と参考書読めば全部答えは書いてあるし塾も行かせたのに落ちる方が悪いってさ、親は二人とも自分基準なんだよ。自分達が出来ることは子供も出来るはずだと信じて疑わない。その癖、姉には甘い。女の子は私立でもいいって東京の学費がバカ高い私立女子大。不公平だ、ふざけんなって両親に言ったら、東京の有名女子大の学歴は婚カツの箔になるから投資だとか抜かしてさ。男は稼ぎで巻き返せても女は専門職に就かない限り生涯賃金が低いからだって。姉の方が出来がいいからな…はあ…」  ある日の休憩時間、酒井君の愚痴が炸裂した。大変だね、でも凄いよ、私も酒井君を見習いたいなと、酒井君の愚痴に合いの手を入れていた。 「野島さんは通信制の愚痴を言わないよね、全然。スゲーよ。なんで?」 「自分のやりたい分野だし、道楽みたいな学問だから働くことを条件親にに許して貰ったの」 「カッコいい上に潔い。俺は未だにサークルとか普通のキャンパスライフに未練アリアリ」 「普通の大学生活だと思って始まったら、大学デビューに失敗してボッチとか。昼間部の人にも悩んでる人はいるんじゃないかな。そういう人は通信制にしておけば良かったと後悔してるかも。大勢の人の中で仲間に入れないと孤独が際立つから。他人には他人の悩みがありそう」 「洞察力と想像力が半端ない。言われてみればそうかもな。ずっと普通の大学が羨ましいと思ってたけど、一長一短か。野島さんは俺と違って達観していて大人っぽい。見習わなきゃ、同い年とは思えないよ」 「そんな…仕事で沢山フォローして貰ってるし、私こそ酒井君を見習いたい」 「仕事は慣れだよ、春休みから先にいるだけ。通信大学の人が周りに全然いなくてさ。野島さんと色々話せて気が楽になった。なんとかこれからも頑張れそうだ」 「私も。基本孤独だよね、通信だと」 「そうだ、今度一緒に自習しようか。レポートの締め切り地獄だから、自習しないで喋って勉強出来ないとか、そういうオチはなさそう」 「いいね、一緒に自習。スタバとか?」 「コメダかな、長くいられそう。次の休みが被る日は…シフト表持ってくるよ」 というわけで、酒井君とお互いのレポートを仕上げるために一緒に自習することになった。
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