1-4.再会④

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1-4.再会④

「ここちゃん、ヒーローと写真撮る? 」 「ううん、いらない。マジキモエックスいないし」  千和と心良が話していると、スタッフが近づいて声をかけてくれた。 「怪人たちでしたら、出口でお見送りをしていますので。お写真も大丈夫ですよ」 「そうなんですね。ありがとうございます」 「いいえ。私も怪人好きなんですよ」 「やった! はやく行こう、ちわちゃん。お姉さん、ありがとうございます! 」  ちゃんとお礼がいえたね、と心良をほめてから、千和は弓弦たちを見た。 「カイロと公希くんはどうする? 」 「せっかくだから、ヒーローと写真撮っていくよ」  言いながら、弓弦がスマホをポケットから取り出した。 「良かったら、また一緒にヒーローショー行く? 」 「え」 「あ、いや、変な意味じゃなくて。公希おとなしいから友だちが少ないんだ。ここちゃんが遊んでやってくれたら嬉しいな、って」 「うん、わかった」  千和が驚いたのは、同級生からライン交換を申し込まれるとは、まったく思っていなかったからだ。  千和は高校生のころ、ほとんどコミュ障に近い生徒だった。いつも教室の片隅で本読んでるボッチちゃん ―― そんな暗黒時代を知っている同級生が、わざわざ交流したがるはずがない。  だが、弓弦はまったく気にしていない様子で、ライン交換を終えると 「じゃ、また」 と手を振った。  出口で怪人たちとの写真を撮り終え、千和と心良は本屋に向かった。  硝子との待ち合わせ時間にあわせるため、ゆっくりと絵本を見る。 「好きな絵本あったら、買ってあげるよ」 「んーとね。これ、ようちえんにあったやつ」 「じゃ、これにする? 」 「ううん。こっち」    心良が選んだ本の表紙には、おどろおどろしい雰囲気の背景とぼんやりこちらを見る少年が描かれている。 「ホラーじゃん。こわくないの? 」 「こわいけど、こわいのすきなの」 「へえ…… 」  千和は、絵本を持った心良と一緒にレジに向かった。  レジの前では3人順番待ちしている。その後ろに並び、千和は心良に2千円を渡した。 「レジの店員さんに絵本とお金を渡して、おつりをもらったらおばちゃんにちょうだいね」  言い聞かせると、心良は真剣な顔になってうなずいた。  順番は、すぐにきた。 「これください」 「はい、ありがとうございます。1760円です」  心良はもらった絵本を脇にしっかりかかえ、背伸びしておつりを受け取った。 「はい、ちわちゃん」 「ありがとう。お買い物できたね」 「ここ、すっごいドキドキして声がひっくりかえりそうになった」 「でも大きな声でいえたね…… じゃ、いこうか。そろそろ待ち合わせの時間だ」  本屋を出て階段をおりる。手をつないだ心良はときどきスキップをしている。  待ち合わせのカフェまでは、すぐだった。  家族連れからの評価が高い店で、本格的なケーキとコーヒー、紅茶が楽しめる一方、キッズスペースや子ども向けメニューも充実している。  千和と心良が店に入ると、すでにテーブルについていた硝子が気づいて、手を振った。キッズスペースに大知を解放したばかりらしい。ほっとしたような表情だ。  ママ、と走ろうとする心良の手をつなぎなおして、千和は尋ねた。 「ここちゃん。お店では、どうするの? 」 「あるく」 「はい、大正解。さすがここちゃん」  テーブルにつくと、硝子は 「ちゃんと歩いてこれたね」 と心良をほめ、続いて千和に顔を向けた。 「なんかもうすでにベテランだね」 「ここちゃんが良い子だからだよ。あと実は孫育ての本も読んだけど」 「孫! 」 「だって立場的に近いかな、って」 「ちわちゃん、いいママになりそう」 「えー、自信ない」  心良がメニューから顔を上げ 『アイスにする』 と言い置いて、キッズスペースに走っていく。子どもの足でも5歩ほどの距離なので、硝子が 『ここちゃんお店のなか』 と、とがめた時にはもう、靴を脱いで大知の前にしゃがんでいた。  話題を変えようと、千和はケーキメニューを開いた。硝子に向けて差し出し 『どれにする? 』 と問う。 「ナッツ系かフルーツ系かで、いつも迷うんだよね。スコーンもおいしそう」 「だったら、ふたりでアフタヌーンティーセットつついたほうが、いろいろ食べられてお値段もちょっとお得じゃない? 」 「それは言えてる」  オーダーを取りにきたスタッフにアフタヌーンティーセットとキッズアイスを頼む。スタッフが去ると、 『で』 と硝子は身を乗り出した。 「あれ、どうだった? 」 「んー…… 」  察した千和は、言葉を濁した。  硝子のいう 『あれ』 とはセックスのときに用いる女性用の潤滑剤。悩んでいた千和に、硝子が教えたものだ。  ―― 結婚生活で千和がもっともがまんしていること。それは、夫の身勝手でそっけない性格だけではなかった。  性格は、セックスにもあらわれるものだったのだ。
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