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08 アルデラは優秀な人材が欲しい
メイド達に、アルデラは『公爵に会いに来た』ことを告げた。聞けば公爵は、今は書斎にいるようで、メイドは「こちらです」と礼儀正しく案内してくれる。
(あら、これは……)
メイド達が進む方角から、黒いモヤが漏れていた。進めば進むほど、そのモヤはより黒く濃くなっていく。このモヤを辿って行けば、公爵の所に辿り着くのだろう。
アルデラは立ち止まるとメイド達を引き留めた。
「案内はここまででいいから、貴女達は戻って」
メイド達は少しだけ顔を見合わせたけど、すぐに「はい、わかりました」と礼儀正しく頭を下げた。
(うん、礼儀正しいし、余計なことを詮索しないなんて、あの犯罪者の女には、もったいないくらい良くできたメイドね)
逆にこれくらい良くできていないと、夫人に仕えることができなかったのかもしれない。アルデラは立ち去ろうとするメイド達に声をかけた。
「今、レイヴンズ伯爵家では人が足りないの。給料は、ここと同じだけ出すわ。気が向いたら来てね。貴女達なら大歓迎よ」
ニコリと微笑みかけると、メイド達は「わぁ」と歓声を上げた。
「行きます!」
「すぐに行きます!」
「お世話になります!」
そう答えたメイド達が、本当に今すぐにでも荷物をまとめて伯爵家に押しかけて来そうな勢いだったので、アルデラは「えっと……今すぐはちょっと。明日以降に来てね」と言葉を付け足しておいた。メイド達が立ち去ると、アルデラはブラッドに向き直る。
「さてと、貴方もここまでよ」
この先は黒魔術の耐性がないと命に関わって来る。今も廊下を漂う黒いモヤがアルデラに取りつこうと足元にまとわりついていた。アルデラならまとわりつかれても、気分が悪くなるくらいの影響しかないけどブラッドは違う。
(これから会う公爵も黒魔術が使えるだろうしね。一般人は巻き込めないわ)
ふと見ると、ブラッドの周りには黒いモヤがまったくない。
「あ、あれ?」
「アルデラ様、もしかして、黒いモヤが私の周りにはないのですか?」
アルデラが驚きながら頷くと、ブラッドは自身のポケットから豪華なネックレスを取り出した。
「それって、もしかして公爵夫人が付けていた?」
ブラッドは「はい」と答える。
「先ほど、アルデラ様の力により、一時的に私にも夫人を取り巻く黒いモヤや、殺されたメイド達の怨念が見えました。その後の一連の流れを見ていたら、このネックレスが黒いモヤを防ぐ効果があるのではないかと推測し拾っておきました」
「その通りだけど……」
想像以上に優秀なブラッドに驚いてしまう。
(クリスがブラッドに伯爵家のことを任せているのは、彼が『友人だから』という理由だけではないのね)
アルデラは感心しながら「貴方、とっても優秀なのね」と、素直に褒めた。ブラッドは「有難き幸せ」と頭を下げ、そして、「これで私もこの先へ、お供させていただけるでしょうか?」と、真面目な顔で聞いて来る。
(ブラッドが本当に私の味方になってくれたら心強いわね)
ただ、今の段階で彼を簡単に信じてしまう訳にはいかない。三年後のアルデラは誰かに嵌められて処刑されてしまう。ブラッドは確かに悪い人ではなさそうだが、アルデラを嵌めた犯人がブラッドではないという確信は持てない。
(でも、ノアを救うためには、味方は多い方が良いし……うーん)
黙り込んだアルデラにブラッドは「どうしたら、お供させていただけますか?」と聞いて来る。
「そうね、じゃあ貴方が私を裏切らないって、ここで証明してくれる?」
「はい」
躊躇うことなく返答したブラッドに、アルデラはわざと意地の悪い笑みを向けた。
「じゃあ、左手を出して」
バスケットの中からビンを取り出し、貯めていた黒髪を一つまみすると、アルデラは心の中で『ブラッドの腕に一時的に、不気味な模様を浮かばせて』と願った。
つまんでいた黒髪が黒い炎に包まれる。
そのとたんに、ブラッドの左腕に漆黒の禍々しい文様が浮かんだ。
「この模様は、腕から少しずつ貴方の心臓に向かって広がって行くわ」
「心臓に?」
ブラッドは神妙な顔で言葉を繰り返した。
「そう。その模様が心臓までたどり着いたら、私に服従することになるの。そうなると、私に逆らえば死んでしまうわ。それでも、付いてくる? 今ならまだ消せるけど?」
(まぁ、全部ウソだけどね)
願ったのは文様を出すことだけだ。
(さぁ、どうする?)
ブラッドは一言「望む所です」と答えた。
(えっいいの!? 何がブラッドをここまでさせるの? ちょっとこの人のこと、怖くなって来た……。でも、ここまで言われたら、もう信じるしかないわね)
アルデラは、ニッコリと微笑んだ。
「ウソよ」
「は?」
「全部ウソ。その左腕の模様も、そのうち消えるわ」
驚いているブラッドを無視してアルデラは歩き出した。その後ろをブラッドが慌てて追って来る。
「頼りにしてるわよ」
「はい!」
進めば進むほど、漂う黒いモヤは濃くなっていく。
「さぁ、悪者退治と行きましょうか」
アルデラは楽しそうに微笑んだ。
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