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いつものコンビニ、いつもの店員
弁当ひとつ、お茶のペットボトルひとつ。レジに置かれた物を見た店員は、顔を上げた。
「またコンビニ弁当っすか? 体壊しますよー」
「店員がそれ言っちゃっていいの?」
二十二時を過ぎたコンビニは静かで、ゆるい空気が流れている。毎日のようにこのコンビニで弁当を買っているから、店員――浦河(うらかわ)くんとは顔見知りのような間柄になっていた。
「しかもいつもこんな時間じゃないっすか。やばくないすか?」
「浦河くんもいつも夜勤じゃん」
「俺は昼間、専門行ってるんで、この時間しか入れないんすよ」
「あ、専門の学生さんなんだ」
それなら歳は俺の四、五こくらい下だろうか。いつも気怠げな雰囲気だけど、どこか若々しい感じもするから腑に落ちる。
いくつもピアスを付けていて黒髪に金のメッシュの彼に最初は怖い人なのかと思っていたが、今では俺は、仕事帰りのこのなんてことない会話を楽しみにしていた。
弁当とペットボトルをレジに通しながら、浦河くんは会話を続ける。
「ちょっとは体に良いモン食ったほうがいいすよ。おにーさんまだ若いんだし」
「浦河くんこそコンビニの弁当食ってそうだけど」
「あー、ひど。俺こうみえて料理するんすよ。それにウチ、廃棄もらえないんで」
「へー意外だなぁ」
電子マネーを選択し、スマホをかざす。軽快な音とともに決済が行われた。袋も頼んでいたから、浦河くんが入れてくれるのを待つ。
「あ、じゃあおにーさんのご飯、俺がつくりましょっか?」
「え? 浦河くんが?」
「そっす。明日は二十二時上がりなんで、その後おにーさんの部屋で夕飯つくるっすよ」
どうしてそういうことになるのかわからず俺は戸惑う。だいたい俺と浦河くんはコンビニで少し会話するくらいだし、浦河くんなんて俺の名前すら知らない。そんな相手の部屋で飯を作るなんて、俺には理解が追いつかない。
でも五つくらい年下の子たちだったら、こういう感覚なんだろうか。
「明日もこの時間にここ寄ってください。俺、合流するんで」
「あ、あぁ、うん」
知らないヤツの部屋になんか行っちゃダメだとか、バイト後に飯作ってもらうなんて悪いよとか、色々言葉は浮かんでくる。しかし浦河くんとの関係が変わってしまうかもと思うと、俺は何も言うことはできなかった。
「今日もお疲れっす。ありがとうございましたー」
「う、うん、ありがと……浦河くんもお疲れ」
「明日、忘れちゃダメっすよー」
受け取ったビニール袋が音をたてる。笑顔で見送ってくれる浦河くんに、何故か胸のあたりがうわつく。
いつもと同じ時間、同じコンビニ、同じ店員。しかし確実に何かが変わる予感を俺に抱かせた。
何かが唇にくっつく。この感覚なんだっけと思いながらぼんやりする。視界いっぱいに映る浦河くんを見て、あぁ、キスだと気づいた。
「ん……」
ちゅっ、と音をたてるキスはどんどん深くなる。差し入れられた舌が熱くて、頭が痺れた。
「浦河くん……?」
「おにーさん、俺、コンビニで喋るだけじゃ我慢できないんす」
目をぎらぎらと光らせた浦河くんは俺の体を倒していく。アルコールでぼうっとしたまま、倒す手に従った。
視界の端に映るテーブルには、ビールの缶と浦河くんが作ってくれたチャーハンの残りが見える。
明日も食べられるように多めに作ったと言った時はいつも通りの浦河くんだったのに、何故か今は俺に跨り、俺の服を脱がしていた。
「おにーさん、名前教えてよ」
「名前? ……学(まなぶ)」
名前って名字? 下の名前?
よくわからないちに、俺は下の名前を口にしていた。満足そうに笑う浦河くんを見て、どうやら下の名前であっていたのだと知る。
「俺のこと好きになって、学くん」
「っ」
身を寄せてきた浦河くんは俺の耳元で声を吐く。ゾワゾワとした感覚が全身を駆け、俺は降参したかのように体から力を抜いた。
「……浦河くんは俺のこと好きなの?」
「うん、好き。好きだからこうしたい」
「っ! んっ」
気づけばスラックスがずらされ、紺色の下着が見えていた。その中心を突然撫でられ、短い声が漏れる。
「お、気持ちいい?」
「あっ、ん」
俺の反応を確かめた浦河くんは、今度は下着の中に手を入れてきた。邪魔だと言わんばかりに下着をずらし、俺の熱を扱いていく。
「んっ、あぁっ」
「やば、興奮する」
何度も何度も手で刺激され、俺は熱を昂らせていく。最近は忙しかったから、こうして気持ち良くなるのは久々だった。
だからか、すぐに限界がやってくる。
「あ、あっ、んんっ」
体が震え、頭も真っ白になる。熱を吐き出し、ハァハァと荒い息を繰り返した。
「あー、すげぇくる……」
「ん……浦河くん?」
だらりと脱力した体がうつ伏せにされる。気持ち良かったということしか考えられないでいると、尻に何か硬いものが押し付けられた。
「俺たち絶対相性いいっすよ」
「え……? っ、あぁっ」
ずずず、と硬く熱いものが俺の中を侵食するように入ってくる。
初めてのことで戸惑いも大きいが、そのなかに、相手が浦河くんであることに対する喜びもあった。
「ほら、すげぇ気持ち良い」
「あっあっ……っん」
浦河くんに流されての行為だが、中の熱は気遣うようにゆっくり進められる。根元まで収まると、ゆるい抜き差しが始まった。
「おにーさん、おにーさん……学くんっ」
「あ、あぁっ、うらかわ、くんっ」
中の熱が動かされる度に俺は自然と声を漏らす。ふたりとも荒い息を吐き、お互いを味わうように堪能する。
どうして俺なんだろう。もしかしたら俺以外にもこういう相手がいるのかもしれない。
そんな不安に見て見ぬふりをして、今はただ浦河くんのことを感じていた。
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