02.桜が咲くと人間たちは

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02.桜が咲くと人間たちは

 次の夜、刻々と暗さを増す空。月のそばにはフクロウと春風の姿があった。春風は最近、南からの長い旅よりたどりついたばかり。  これからやってくる春本番に向けて春風も準備が忙しいはずなのに、春風は月の話に付き合っている。ひさしぶりの再会だから、積もる話もあるのかもしれない。  北極星はそう考えながら、月とフクロウと春風の会話にそっと聞き耳を立てる。 「はっきり言って春は嫌いだね。特に桜なんて、花が咲き始めると、人間たちは桜にばかり注目して、月を見上げることさえも忘れてる。まるではじめから月なんて存在していなかったみたいにさ」  それから月は、石版に楔文字を刻みつけるかのようにはっきりと言った。 「だから、特に桜は嫌いさ」  月のそんな愚痴に、フクロウと春風は顔を見合わせる。月はさらに二人を相手に言葉を続ける。 「昔から『花鳥風月』っていうだろ?」 「うん。花も鳥も、そして風も月も風流なものだってことだね」  フクロウの相槌に月が深くうなずく。 「そう。『花鳥風月』。つまり、人間の目から見れば美しくて優雅なものだと認識されていたのに、桜が咲くと人間たちは桜にばかり夢中。月になんか見向きもしない。  だから最近、輝くのも投げやりな気分でさ。それでも人間は月の輝きが投げやりだなって気づきもしない。桜にばかり夢中になってるからね」  なるほど。そういうことか。ぼんやりとした月の輝きを眺めながら、北極星は納得する。
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