警察官とオバサマ

1/3
前へ
/12ページ
次へ

警察官とオバサマ

母が痴呆になってからたまに徘徊する様になった。 徘徊というか、出て行って帰り方をわからなくなる様な(それを徘徊とよぶのか?)。 夏ならまだ良いが冬にそうなると命に関わる。 あんな老婆が足元もおぼつかない状態でそうそう遠くまでは行くまい、と、たかをくくってると見つけた時に驚く事になる。 しかも、よくわからない戦利品まで持って来てる場合があるのでヒヤヒヤする(絶対にどこかの家の玄関にあったであろう品を勝手に持ってきてたりする)。 居ないとわかっても私は直ぐに警察には連絡せずあらかた近所を探していよいよ居ないとなった時に連絡する様にしている。 が、兄はすぐに連絡する。 前にも書いたが兄は人が迷惑を被るとか相手が自分をどう思うとか関係ない人なのだ。 故に少しお腹の調子が悪くなって痛いってだけで直ぐに救急車を呼ぶが、大概は救急車が到着するまでの間にはおさまってしまい、保険証と簡単な荷物をもってひょこひょこ出てきた兄貴を見て「患者はどこですか!」となる。 まさか、ひょこひょこ出てきたなんともなさそうな男が急患だとは思わないわけだ。 一度それで、病院まで言って晒しものの様に周りの患者がいる前でタンカから降ろされて「家に帰れますよね?」とやられた事がある。 私は心の中で「なかなかエグい事するなぁ」と思って見てたが、後で兄貴にその事を伝えるとやはり気がついてすら居なかった。 そう、兄貴にその手の羞恥心やらなにやらを期待するのは無駄なのだ。 私が晒し者になってた事を伝えると「あっそ、それでも救急車は呼ぶけどね」と返された。 そりゃそうだ。 彼にとっては救急隊の苦労とか周りからどう映るかとかなど「自分が苦しい」という事に比べたら鼻くそほどの価値もないのだ。 これが死ぬ直前というなら全然正しい判断なのだが、彼の場合はその遥か手前であるように見えるのが問題ではある。 閑話休題。 そんな感じで母が少しでも見えなくなるとすぐそこを歩いているとしても探す事なく警察を呼んでいたので、だんだん警察官も「またかよ」的な感じになってくる。 一度などはやや若い警察官がポケットに手を突っ込んだまま何やら半笑いで「良い加減にしてください」みたいな態度をとった時に私の目を見てギョッとしてポケットから手を出した。 そういうつもりじゃなかったんだがつい目に感情が出てしまってたらしい。 それで、警察官の指導のとおりにドアに2個目の鍵をかける事にした。 これで、母は自力では出れないので徘徊は避けられたが、あとから何らか職業のオバサンがやってきて「これは虐待になりますよ」と言った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加