6. 守り桜

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「そこは両側に桜並木が並ぶ広い一本道で、その先に川が流れているのがわかりました」  たくさんの人がその川に向かって歩いていた。歩く人から、あれは三途の川で川を渡ればあの世だと聞いて、お竹さんは自分の死を悟ったという。 「そこは常春で、一年中桜が満開なんだそうです」  花見をしながら三途の川に向かって歩いていると、「お竹さん、お竹さん」と呼ぶ声がする。 「見れば一本の桜の木の下に、姉やが立っておられました」 「姉や? 母が?」  お竹さんが列を抜けて姉やの所へ行くと、「お竹さんはまだここに来てはいけませんよ。この桜並木の裏に元の世界に戻る道がありますから、そこを通ってお戻りなさい」と教えてくれたという。 「でも、あなたは? ここで何をしておいでで?」  お竹さんは聞いた。  姉やは内藤家を去った頃の若く美しい姿のままだった。 「この木は『()り桜』と言いまして、幼くして親より先に亡くなった子供達が親を待つ目印の木なのです。私はこの子達のお守りをしています」  確かに木のまわりや木の上にたくさんの幼児がいて、楽しげに遊んでいた。 「桜子ちゃん」  姉やが呼ぶと可愛らしい女の子が現れ、にこにこ笑って姉やに抱きついた。よく見れば、倫太郎と糸子の愛娘の桜子だった。
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