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3. 別れ
しかし、姉やは入学前に突然姿を消した。
最初は「姉やの父親の具合が悪く、看病に帰った」と言われ、倫太郎はぐっと我慢したが、尋常小学校に入学し満開の桜がはらはらと散り始めても、姉やは戻ってこなかった。
ある時、「姉やはいつ戻ってくる?」と母に聞いてみたが、「大きいのに子守りなんて必要ないでしょう!」とこっぴどく叱られて、姉やの話題は出せなくなった。
倫太郎は学校から帰ると、こっそり家を抜け出して姉やと約束したあの土手の桜並木の所へ行き、姉やが帰って来ないか待った。
日が翳る頃になると、お竹さんに命じられた使用人が探しに来て家に連れ戻された。
そんな日が続いたあと、お竹さん自ら迎えに来た。
お竹さんは若い頃、内藤家に奉公したあと嫁に行き、息子が所帯を持ってすぐにご亭主が亡くなって、倫太郎の祖父に請われて女中頭として戻って来た頼りになる人だった。
「ぼっちゃん、ここで待っても姉やは帰ってきません。姉やはお暇をいただいて、遠い所にお嫁に行きました」
お竹さんは感情を入れず淡々と説明した。
「最初から、ぼっちゃんが学校に上がるまでの約束だったのです。最後にぼっちゃんにご挨拶しようか悩んでおりましたが、別れ難くなるからと何も言わずに出て行ったのです。だから、もう諦めて一緒に帰りましょう」
そうお竹さんに言われた倫太郎は、涙を堪えて下を向いた。
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