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4. 新妻
成長した倫太郎は内藤家の正式な当主となった。
祖父は倫太郎の成長を見届けると、安心したように鬼籍に入った。妹の千代には名家の次男坊を婿に取り、分家して店を持たせた。母は妹の屋敷に入り浸りだ。
そんな時に糸子との縁談が来た。先代、先々代を亡くして後ろ盾がない若造当主には願ったりの縁談で、祖父の代から奉公してくれている支配人の佐吉やお竹さんが喜ぶものだから話を進めてもらった。
正直、倫太郎には家族の情がわからなかった。母親に甘えた記憶もなければ、父親と遊んだ記憶もない。
しかし、大切なのはこの家を守るための家と家との結びつきだ。この時代、そんなものだろうと思って妻を迎えた。
糸子の輿入れは大層立派なもので、白無垢の花嫁の美しさも相まって大層な評判になった。
「奥様がいらっしゃって安心しました。竹は隠居して孫の世話でもいたしましょう」
翌日、お竹さんは内藤家を去った。
倫太郎や店の者達、それに糸子も「いろいろ教えてほしい」と慰留したが、お竹さんの意思は固かった。
さて、表向き、倫太郎と糸子は仲睦まじい夫婦だった。
「これはすぐに跡継ぎに恵まれるだろう」と周囲の期待は高まったが、一向にその気配はなく、糸子がやつれていく様子に家の者は心配した。
「産めない嫁など、里に帰せばよい」
たまに顔を出す母は、支配人にそんな暴言を吐いた。
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