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倫太郎は首を横に振った。今の母の手前、産んでくれた母の詮索はできずにいた。
「大旦那様との約束で、このことは墓場まで持っていくつもりでしたがお話します。大旦那様にはあの世でお詫びいたしましょう」
お竹さんは語り始めた。
「姉やがぼっちゃんを産んだお母様です」
「……!」
「お母様とぼっちゃんのお父様は、お父様が東京で修業中に出会いました。お父様は結婚を望まれましたが、お父様には既に許嫁がいて、大旦那様がお許しにならず叶いませんでした」
二人は別れたが、既に姉やのお腹には倫太郎が宿っており、密かに出産させ男子なら内藤家で引き取る約束になったという。
「出産のお手伝いには私が参りました。ぼっちゃんが生まれ、情が移らないようにと三日でお母様とお別れしました」
姉やは泣いて倫太郎を見送ったという。
しかし、倫太郎の父が亡くなり、後家になった母の妹への偏愛ぶりを心配した祖父が、倫太郎の実母が未だ独り身なのを知り、修学までの三年間、子守として来ないかと声をかけた。
「母親とは名乗らないのが条件でしたが、それでもお母様は泣いて喜んでこちらにいらっしゃいました」
姉やが生母であることは、亡き祖父とお竹さん、それに支配人の佐吉しか知らないという。
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