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4.  「……てことは、付き合ったわけじゃなかったのね。」  あの後、大声を出したことで透から部屋を追い出された芹香は声にびっくりして駆けつけた颯希と透の母親にお詫びの言葉を伝えて家に戻った。そして、今日のお昼休みに真奈美に報告することになり屋上に来ている。 「うん、詳しいことは聞いてないけど告白されて断っているって」 「ふーん。まぁ、良かったじゃない。愛しの透くんが取られなくて」 「まぁ……ね……。」  芹香がそう言って悲しそうな顔をする。 「……透くんが取られなくて済んだっていうのに、暗いわね。」 「そうだね……。透から見たら私はバカでかい女だからね……。。私はどう考えても、恋愛対象にはならないよな~って思ってさ……。」  芹香の言葉に真奈美が言う。 「愛に身長は関係ないって私は思うけどね。」 「……だといいけど」  そこへ、屋上のドアが開いた。  そこには、芽衣が憮然とした表情で立っている。そして、芹香たちを見つけると一直線に向って歩いてくる。前まで来ると、芹香を睨みつけるように見て言葉を放つ。 「透くんから聞いたよ。告白されたけど断ったってこと……。」  芽衣がため息をつく。そして、更に言葉を放つ。 「案外呆気なく早々にばれたわね。もう少し、誤解させたままでいて欲しかったんだけど。でも、バレてしまってるのなら仕方ないわ。」 「なんで、誤解を招くようなことを……?」  芹香の言葉に芽衣が冷たく言い放つ。 「透くんのことを可愛い可愛いって連呼するからよ。だって透くんは……。」  そこまで言って押し黙る芽衣。  しばらく沈黙が流れる。  その沈黙に耐えられなくなって芹香が口を開く。 「透が……なに?」  芹香の言葉に芽衣が言う。 「あんたなんかに教えなーい!!」  芽衣はそう返してあっかんべーをする。そして、そのまま踵を返して屋上から去っていった。 「え……?何……?」  話が見えなくて芹香が混乱している。真奈美がその様子に口を挟む。 「まあ、良かったんじゃない?ちょっと性格悪いところあるけどね。」 フォローになっているのかなっていないのか分からない回答をする真奈美に芹香は話がどうなっているのか分からない。    何が何だか分からない状況でお昼休みが終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。  放課後になって芹香と真奈美は部活を休んでお茶をすることになり、カフェに来ていた。芹香の前にはオレンジジュースが置かれていて、真奈美の前にはホットコーヒーが置かれている。二人は仲良く並んで座っていた。そしてなぜか、二人の目の前には、ホットミルクティーを啜っている芽衣がいる……。  時間を戻すこと三十分前。  きっかけは放課後になり、芽衣が芹香と真奈美に声を掛けて、「お茶でもしない?」と誘ってきたのが事の始まりである。急のことに目が点になった二人だったが、何か理由があるかもと思い「OK」の返事をした。    こうしてカフェに来ている……というわけである。 「……で、私たちの何の用かしら?」  真奈美が話を切り出す。その問いに芽衣が答える。 「特に用事ってわけではないわ。まあ、しいて言うならあなたたちと仲良くなりたいっていうだけよ」 「「……はい?……」」  唐突に芽衣の「お友達になりましょう!」宣言で芹香と真奈美の声が重なる。真奈美が言う。 「どういう風の吹き回しかしら?」  その言葉に芽衣はミルクティーをテーブルに置く。 「別に裏は無いわよ。透くんからも悪い人たちじゃないって聞いてるしね。それに、透くんと阿久津さんが幼稚園からの幼馴染で鈴本さんは小学校で一緒になって昔は三人で遊んだ時期もあるって聞いたわ。ま、友だちになるのに苗字で呼ぶのもおかしいから、今から私も芹香と真奈美って呼ぶね。私の事は芽衣でいいわ。よろしくね!」  そう言って、芽衣がにっこりと笑う。芹香と真奈美は芽衣の強引ともとれる言葉に口を挟めない。 「……あんたって、結構キャラ濃いのね。」  真奈美が半分呆れたように言う。その隣で芹香の中でガラガラと崩壊音が鳴り響く。先程から芹香がしゃべらないことと目が点になったまま固まって動かない様子を見て芽衣が言う。 「ところで、芹香はいつになったら魂が戻ってくるの?」  芽衣がいきなり芹香を呼び捨てで言うが、芹香は目が点になり口が開いたまま閉じられない。そこへ、真奈美が説明する。 「あぁ、多分『かわゆい芽衣ちゃん』と認識していたから、理想と違い過ぎて自分の中であんたのイメージがガラガラと崩れたんでしょうね。」 「ちょっと!あんたじゃなくて芽衣って呼んでって言ったじゃない!」 「はいはい。」  そんなこんなで、芹香はフリーズしたまま、真奈美と芽衣が楽しく(?)おしゃべりをしている。帰る頃になって正気の戻った芹香と共に三人はカフェを出た。そして、途中で芹香と別れて芽衣と真奈美は二人で帰路に着いていた。 「芽衣も家がこっち方面なのね。」 「そうよ。今は祖父母の家にお世話になっているのよ。うちの家、転勤族だからね。卒業して大学に通うのにここからの方が通いやすいから……。本当はね、高校は前のままで卒業したかったのだけど、父の仕事の関係でまた転勤することになってね。大学は行ってからまた転勤ってなっても嫌だったから、大学は祖父の家から通うことになったの。気持ち的には前の高校で卒業したかったけど、急に父がまた転勤することになって、それならもう祖父母の家に行くって言って変な時期になったけど転校してきたのよ。」  芽衣がどことなく寂しそうに話す。真奈美はあえて何も言わなかった。転勤族の子供はなかなか親しい友達が作れないと聞いたことがある。おそらく芽衣もなかなか友達ができなかったのだろう。それを考えると気やすい慰めの言葉は逆に辛いのではないかと思い、あえて何も言わなかった。 「ねぇ、真奈美。」 「何?」 「透くんから聞いたんだけど、真奈美は知っているんだってね。」 「あぁ、もしかして――――――っていう話?」 「そうよ、――――――っていう話よ。でも、芹香はそのことを知らないのよね?」 「今はまだ言わないで、って言われているからね。」 「なんでよ?」 「多分、気にしているのでしょうね……。」 「……そういうことね。」  意味深な会話がなされる。そのことに多くを語らなくても分かる事だから、何のことかはあえて言葉に出さない。 「そういえば、明日は休みだけど真奈美は芹香と出掛けるの?」 「明日は芹香の毎月恒例『一人で可愛いモノ巡り』よ。趣味巡りにちゃちを入れる人がいたら楽しめないからね。月に一日だけそういう日を作って出掛けているわ。」 「……芹香らしいね。」  そんな会話をしながら帰り道を歩く。  その頃、家に帰った芹香は明日のお出かけに来ていく服をルンルン気分で選んでいた。 「明日の服は何にしよっかぁ~な~♪」  鼻歌を歌いながら服を選ぶ。  明日のお出かけを楽しみに過ごしつつ、夜は更けていく……。
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