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8宜しいんですか?
本当に宜しいんですかって?
ええ、先日お話しした通り、伐採していただいて構いません。
ご覧の通りよく咲いて、涼やかな甘い匂いが立ち込めるライラックの花は今を盛りと満開ですが、私にはもう用はないし、むしろスッキリさせたいのです。
ライラックはね、母が大好きな花でした。
私を産んだときに、亡くなってしまったので記憶はありません。あるのは、ライラックが咲くたびに私を責める父の姿だけ。
お前さえ腹の中にいなければ、母さんは長生きできた。
お前が生まれなかったら、母さんは今頃ライラックが咲くのを嬉しそうに眺めていたはずだ。
お前さえいなければ。
お前さえ生まなければ。
子供の時からずっと、そうでした。
だから私はライラックが大嫌いなんです、いつもいつも責められて、どうしたら許されるのかもわからない。ただ聞かされ、追い詰められるだけ。
そんな父も先日、心不全のために帰らぬ人となりました。
ライラックが咲いた朝、木の下で寝転がるようにして、冷たくなっていたんです。
見つけた時、私は悲しいというよりホッとしたんです。不謹慎ですが、どうにもならないことで責められたり、苦しまなくてよくなったんだなと。
さあ思い切って、どうかバッサリと切ってくださいな。
ようやく離れられるんです。
父からも、そして......顔も知らぬ母からも。
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