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「あとは窒息しないように、空気を読まないための装置を気管へ埋め込む手術が待っていますが、同意書はいかがしますか?本人以外の署名が必要ですから、できればご家族が望ましいんですが」
「きっと、都合に良い子でいさせたいから同意しないでしょうね。あなたのためって、趣味じゃない習い事や細かい干渉が常でしたから。入浴中に持ち物を勝手に見られたりして、ひどく不快でした。はっきり言えず、されるがままなんてもうたくさんです」
カウンセラーは、差し支えなければ自分ではどうだろうかと提案しようとして、その言葉をぐっと飲み込む。ここから先は、彼女が決めることであり、自分がでしゃばるのはむしろ悪影響ではないかと察したからだ。
「本当なら、埋め込まずに自分でコントロールできれば……そうだわ、いい考えがあるの。ねえ、ちょっと耳を貸してくださる?」
いたずらっ子を思わせるキラキラした光を瞳に浮かべ、彼女はそっと、カウンセラーに耳打ちした。
どうやらこちらが思うよりも、患者とは案外たくましく、したたかに動くコツをいつのまにか習得するようである。
提案を聞き終え、カウンセラーは部屋を出て急ぎ、主治医とともに駐車場へ向かった。
そこで張り込んで、関係者に対し、スマホ片手に今にも飛びかかりそうな彼女の同僚に、用事ができたからである。
反論する隙もなく説き伏せ、挙げ句の果てには悔しさと後悔で震える手にペンを握らせ、手術の同意書へ署名させるために。
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