弟よ。何故にきらさぎ駅で降りたのだ

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弟よ。何故にきらさぎ駅で降りたのだ

父も母も。早くに亡くした私には、もう弟しか身内は居ない──。 だから、顔を合わせられる時には合わせて。一緒に食事ができるのであれば、なるべく一緒に食事をしたい。 そう言って、出不精な弟とたまには焼肉でもと。焼肉屋に予約を入れて。予約の時間になったのに。 「来ねぇよ!! 弟が来ねぇよ!!」 焼肉屋の個室で、思いっきり叫んだのは。 「ねぇ、個室で叫んでるのって……人気作家の千冬さん?」 店員達のぼそぼそ噂声に、人気作家の千冬が「やべぇ」と呟いた。 「……ったく。何をやってるんだ、弟は。先に食っちまうぞ」 そう言いながら、スマホのカメラでブログ更新用にと、サービスのキムチをパシパシと撮る。 ひとしきり写真を撮り、スマホを置いたのと同時に、電話が入る。 着信の相手を確認すると 『ユウジ』 と、名前が出ていた。弟である。 すかさず、千冬が電話に出ると── 『あ。姉さん、私です。ユウジです』 「わかっとるがな。弟よ。一体、今どこに居るんだ。お姉ちゃんはお腹が空いた。早く来るのだ」 『あの……行きたいのはやまやまなんですが、駅を間違って降りてしまったようで……』 「マジか」 申し訳なさそうに答えるユウジに、千冬は「仕方ないなぁ」と笑いながら聞く。 「どこの駅に間違って降りたのよ?」 『それが、聞いたことのない名前の駅で……』 「なんて名前の駅なの?」 『えっと……字が薄くなってて ……。きらさぎ駅って書いてあるみたいです』 「…………なんて?」 『きらさぎ駅』と聞いた瞬間、千冬が固まる。 『きらさぎ駅』──かつて、2ちゃんねるのオカルト板で物議をかました、都市伝説。その駅は異界に通じる駅とも、あの世に通じているとも言われている駅。 「いや、マジで弟よ。あんた、人間離れしすぎ。筆跡模写といい、今回のことといい、弟はあれか? 怪物くんか?」 弟のユウジは、他人の筆跡を一致率100%で再現させることができる。通常、他人の筆跡を100%一致させることは絶対に無理なのだが、ユウジにはそれができる。 その能力を使って、代筆屋を営んでいるが、それはまた別の話。 とにもかくにも、今はきらさぎ駅の話である。 「弟。弟にもわかると思うが、そこは多分異界っつうか、多分あの世」 『ちょ、そんな簡単にあの世とか言わんでください』
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