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「彼らは除籍するには惜しい人材だ。セキは副会長であり、正直私より人気も高くリーダーシップもあり、今回のように弱い天使を助ける優しい心の持ち主でもある」
「か、会長……?」
書記が慌て出す。
「モニカは羽こそ生まれつきないが、座学では成績トップだ。おまけに父親は大天使であり、裁判官だ。母親は人間だが彼の仕事を手伝っている。彼女を羽がないという理由だけで除籍してしまうのは勿体ない」
「生徒会長! それはあなたの意見だ! 我々は校則に従うべきで……」
「あの校則も数十年前から何も変わっていません。まずは私の意見を述べさせてください、先生」
先生は何か言いたそうにしたのち、眉間にシワを寄せて会長を見た。
「なぁ、モニカ。お父様が裁判官なのは本当なのかい?」
セキが小声で私に聞く。
「まぁ……そうだけど……」
「すごいじゃないか! なら、今度お話してみたいな。紹介してくれないかい? きっと聡明な方なんだろうな……」
「副会長! 私語は慎んでください!」
「ごめん」
副会長は書記に素直に謝った。苦笑いしていた。
「えー、つまり。私は、必ずしも校則に則る必要はないと考えている。もしかしたら、これが人間との交流の第一歩になるかもしれないからだ」
「しかし……」
「先生。ずっとこのままでよいのですか? 天界の未来はもう見えない。戦争をして、お互いすり減って、これ以上何を望んでいるのですか?」
「それは、俺に聞かれても困る」
「ほら、答えられないでしょう?」
会長はほんの少しにやりとしてみせる。
「だから、知らないものに触れるべきです。新しい種族にね。セキ」
「はい」
セキが返事する。会長はセキの方を見る。
「問題児としてではなく、ここはひとつ、地上に降りた経験のある友人として話を聞きたい! セキ! 発言を!」
「会長、ありがとうございます!」
さっきまで沈んでいたセキの表情が明るくなる。皆がこの展開に驚いた目で二人を見ている。
「会長……」
「今は彼の発言を聞きなさい」
書記は黙ってしまった。
再び静かになった生徒会室の中、セキは私の隣で発言する。
「僕は、地上に降りました。いや、僕たちは。そこで、人間に出会いました」
会長がうむ、と頷く。
「しかし彼らは……敵対的ではなかった。むしろ友好的でした」
私たち二人以外が驚愕の表情を浮かべる。セキは話を続ける。
「彼らには家族がいて、戦争があり、いじめもある。我々と何ら変わりはないのです。そして、何より……」
クミのことを思い出す。私はセキを見た。顔が笑っている。
「パイが! おいしかったのです!」
周りがざわつく。「パイ……だって?」「地上の食べ物を食べて来たのか……」口々に話し始める。
「あのパイは本当においしかった。モニカから押収したものがあるはずです。皆で食べてみませんか」
「おもしろいアイデアだね、セキ。許可しよう。持って来てくれ」
「はい……」
書記が訝しい顔で生徒会室を出ていく。
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