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「セキ。君は何をしようとしているんだ? お前は副会長だろう、もしその役職なら天界の掟を順守するべきじゃないのか」
先生がセキに聞く。
「いえ、僕はもう地上に降りるという禁止行為をしてますから。今更何をしたって関係ないでしょう? みんなに人間の作ったパイを食べさせたって、別に」
セキはにこりと笑いながら答えた。
「だからその行為が……」
「会長! 持ってきました」
生徒会室のドアが開く。書記の手にはあのパイの入った紙袋があった。
「うむ。では皆で食べようではないか」
生徒会室にはどんなお偉いさんが来ても良いようにと、食器一式が置いてあるのだ。
書記は慣れた手つきで全員分の皿とフォークを用意し、そしてパイを均等に切り分けた。一切れを十人分くらいに分けたから、一人一人の分は小さくなってしまったけれど。
「いただきます」
会長が真っ先に食べる。他の天使は遅れて口に運ぶ。先生は見ようともしない。
「うむ……うまい!」
会長がにこにこ笑う。「もっとないのか」とよだれを垂らしている。あんな緩んだ会長の顔、初めて見たかもしれない。
「おいしいですね。この木の実は一体なんだろう……ベリー系のものだと思いますが……」
書記は真剣に悩み、喜んでいる。
他の人も口々においしかったと言った。セキは事態が好転したので嬉しそうだ。私もつい口の端が上がってしまう。
「む……そうなのか」
皆の反応を聞いてパイを見つめる先生。少し、驚いているようだ。
「先生、本当においしいですよ」
「書記が言うのなら」
先生はフォークでパイを突き刺して口元へ運ぶ。口に入れる前に躊躇いを見せた。本当に地上の食べ物を食べてしまっても良いのかと迷っている。でも、最後には目をぎゅっと瞑って食べた。
「……」
私たちは先生の様子を固唾を呑んで見守る。
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