地上

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「おや、天使様ではありませんか!」  おじいさんの声がした。振り返ると、背の小さい老人がいた。とても優しそうな顔をしている。もちろん羽はない。人間だ。 「あ、どうも」 「おぉ、天使様が喋られた……!」  私が返事をすると、彼は皺のある両手で小さく拍手をする。 「う、うわあ……に、ニンゲン……!」  セキは固まっている。 「おっと、そういえば。天使様はなぜここにいらっしゃるのです?」 「それが……」  私は要点をかいつまんで話した。「なるほどなるほど」と老人は頷く。 「それでは、私どもの集落に来ていただくのはいかがですかな? きっと孫も喜びますわい」 「お孫さんがいるんですか?」 「えぇ。天使好きの孫がね」  彼は「こちらです」とさっさと行ってしまう。 「ほら、セキ。行こうよ」 「いや、でも……! こいつらには羽がないんだぞ!」 「私にもないじゃん。何を今更……」 「はっ……!」  セキは恐怖で固まった状態ながらも、ぎこちない足取りで老人の後をついていく。  ……面倒くさいやつ。  しばらくは副会長の人間嫌いと向き合わなくちゃいけないみたいで、私は少しうんざりした。
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