地上

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「クミ? そろそろ寝る時間だよ」 「はーい」  しばらく話していると、案内してくれた老人が部屋の扉を開けて言う。 「じゃあ、おにいちゃん、おねえちゃん。また明日ね」 「また明日」 「おやすみ」  二人がいなくなる。 「ねぇ、モニカ」  セキが私に話しかける。 「なに」 「天界に戻らないかい?」 「でも来たばっかりだし、せっかく歓迎してもらってるんだから、もう少しゆっくりしていっても……」  セキは首を横に振る。 「僕は、天界に勝負を挑もうと思ってる」 「……どうやって?」 「簡単なことさ。戦争だよ。人間を味方にするのさ」  私はつい「え」と驚いてしまう。ランプの灯りが彼の瞳に映る。  戦争? ただでさえ天界の国同士で戦っているのにさらに?  私は疑問に思う。 「どうしてそんなこと言うの? 戦争なんて怪我人が出るだけじゃない」 「でもね、モニカ。それでも戦争をする意味はあるんだ。人間は共感してくれるって、今日わかったからね」  セキは不敵に笑う。 「だって、おかしいじゃないか。翼のない人たちが選ばれないなんて。罪を犯したわけでもないのに」 「まぁ……そうだけど」 「だから、人間に賛同してもらって今の僕の意見を聞いてもらうのさ」 「……」  黙っていると、少し強気な声が聞こえてきた。 「僕は本気だよ。上の奴を倒してでも、僕の言うことを聞かせてやる」 「やめて」 「僕は行くよ」 「やめて!」  私の声が部屋に響いた。 「あなたが堕天するのは……嫌だ」  消え入りそうな声しか、出なかった。セキは私をはっとした顔で見つめる。  天界では、罪をつぐなうために堕天させられることがある。戦争を起こすなんて、天界に刃向かうなんて一番重い罪だし、絶対に堕天になる。そうなると天界には一生死ぬまで戻れないし、死んでも戻れない。  こんなに優しいセキが、人気者のセキがそんなことになるだなんて私は許せない。  私は静かに口を開く。 「……いきなり戦うんじゃなくて、話し合いでは解決できないのかな。ほら、セキは生徒会じゃん。だから、生徒会の力でなんとかできない?」 「……」  セキは机に視線を落とす。 「生徒会ができることなんて限られてる。それに、僕はモニカと一緒に地上へ降りてきてしまった。きっと罰が下されるに違いないよ」 「でも、掛け合ってみないとわからない」 「んー……」  首をひねってセキは悩む。 「天界に行くなら私も行く。一緒にやってやろうじゃないの」 「……心強いね。ありがとう、モニカ」 「いいよ。私、あのままじゃきっとここにはいなかったから」
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