サクラセンパイ

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   桜先輩。ちなみに、『桜』は苗字で、本名は『桜 通(さくら とおる)』。だから、桜先輩。  高校一年生の時、2つ上の吹奏楽の先輩に、僕はずっと片思いをしてきた。 友達もいない、クラスにも部活にも居場所がない僕に、先輩…桜先輩だけがずっと優しくしてくれた。明るくて、みんなから好かれてて、いつもニコニコ話しかけてくれる先輩に、あっという間に恋心が芽生えた。 でも、時は過ぎるのは早くて、何もできないうちに、先輩の卒業の日が来た。 伝えなきゃ。付き合うなんてそんなのいらない。せめて、後悔しないように。 式の後、人に囲まれてる先輩を、勇気を振り絞って手紙で校舎裏へ呼び出した。 緊張しながら待ってると、先輩はあの優しい声で僕に話しかけてくる。 「なぁに?どーしたの?」 いつも先輩はこうだ。暗くて下向いてばっかの僕の顔を覗き込んでくれる。光をくれる。 「あ、あの、、!」 そこからの記憶がない。ただひたすらに心のままに言葉を紡いだ。 静けさが漂う。 しばらくして、先輩は笑った。 「嬉しい。」 信じられない一言だ。でも確かに先輩はそう言った。 そして、そっと僕に近づき、 優しく抱きしめてきた。 あったかい。心臓がドキドキする。 「さ、桜先輩、?」 これって、両思い? 喜びで頭おかしくなりそうだ。僕はひたすらに頭をフル回転させて、考え続けた。 すると突然、優しく地面に押し倒された。 「、へ?」 びっくりしたけど、先輩はにこっとわらったから、嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくてたまらなくて、 僕もそっと微笑み返したその直後、 桜先輩は、先輩とは思えないほどの力強さと乱暴に僕の服を脱がした。 ぶちぶちとボタンが音を立てて弾き飛び、何が起きてるのかわからなくてされるがままだ。でも嫌じゃない。僕はこの人が好きだから。 けど、なんか怖い。 先輩全然こっちみてくれない。 なんも言ってくれない。 いろんなところにキスしてくれてるけど、正直、痛いです先輩。 ねぇ、先輩。 そんなとこ汚いですよ。入らないですよ。先輩のなら嬉しいけど、血、出てません?僕。 気づいたら全部服乱れてて、なんかあちこち痛くて立ち上がれないで仰向けに寝転んだまま。 風のように過ぎ去った時間だった。 これって、女子でいう、処女喪失かな、とか思って。なんかわかんない感情になって。 「桜先輩、、」 何度呼びかけても先輩は立って僕を見下ろすだけだった。 「いまいちだったなー」 冷たい顔した先輩が言った。 結局先輩はその一言以外僕にかけてくれなかった。そしてそのまま卒業してったんだ。そこから二度と会ってない。 あの最後の一言の瞬間、先輩は顔に心が無かった。冷たい先輩を初めて見た。 僕、勘違いしてたんだ。先輩と両思いになれて、付き合えたってそんな風に思って。 涙が止まらなかった。たった一人でさ。 結局、ひとりぼっちかぁ。 痛い。痛い。 先輩。 それから数年、僕は大学生になり、同じサークルだった同級生と恋人同士になった。 そいつは、心から純粋で、いつでも僕を好きでいてくれる、そんなやつ。 桜が咲いてる道にくると、ほら、今も隣で 「ごめん、ここやだよね?」 「いや、大丈夫。」 付き合ってからちょっとして、あの日のことを僕は全部話してたんだ。桜先輩にされたことも全部。 その話聞いたらさ、泣いて怒って僕を抱きしめて、慰めてくれた。今だって、こうやって桜見るだけで気にかけてくれる。 だからこそ申し訳ないんだ。 言ってないことが一つだけあるから。 これだけは言えない。 僕の中であの日のことは、確かに悲痛な出来事だ。でも、 あんな酷いことされたって、 僕は、まだ桜先輩が好きなんだ。 桜をみるたび、桜先輩への密かなる恋心を嫌でも思い出す。   だから桜が嫌なんだよ。 ほんとごめんなぁ。違うんだよ。僕さ。 今の幸せ、今の幸せを!って、言い聞かせてさ。努力したんだよ。でもさ、どうやったって、 桜先輩が 好きなんだよ。
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