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「……正直、患者さんの気持ちは分かりません。私はまだ死ぬ予定は無いですし、同じ立場に立つなんてとても出来ませんから。でも……」
患者の気が安らぐ魔法の言葉。脳内検索しても出てくる筈も無い。少し逡巡して、曖昧な声を出して、すぐに引っ込めて、天井を見て、やっぱり出てこない。
「私の庭に、墓でも作りますか?」
「……は?」
あっ、と声を引っ込める。言ってしまった。内心でたった一つ密かに育ててしまっていた想いが、今更溢れ出してしまった。
どう収集をつければ……いや、あぁ。
「もういいや」
「何言って……」
「あなたは忘れられたくない、と言ってましたね。なら話は簡単です。家の庭に墓を作って見たくなくても見える様にすればいいんです。物理的に忘れられなくなりますよ」
気持ち悪い。
そんな事考えてたのか。
幻滅した。
目の前から消えてくれ。
とにかく、私はこの時否定的な台詞を吐かれて、もう二度と関係は修復できないと思った。ああ、終わったなと思った。私と患者が逆の立場に立ったら、絶対に罵倒する。逆にそうしない方が異常だ。
でも患者は無言で、何も話そうとしない。
「えっと……病院に経過報告してきますね」
「……」
声が掠れて、喉が張り付いてしまっていた。
私は逃げる様に部屋を後にした。
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