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失意のまま迎えた入学式。
せっかく花粉症対策の薬を飲んで、しっかり厚めのマスクをして登校したのだが、校庭の桜はだいぶ葉桜になってしまっていた。
クラス分けで僕は一年三組となった。同じ中学からこの高校に進んだ生徒は数人いるが、誰も仲が良かった生徒ではなかったので、どんなクラスになっても僕にとっては見知らぬメンバーだらけだった。
楽しくなんてなるのかなと不安が大きい一学期だった。
「だった」と過去形にできてしまうぐらい、二学期には僕はクラスに溶け込んでしまっていて、話し相手に困ることもないぐらいになっていた。一緒の部活に入った仲間もいたし、文化祭前後から男女同士でも仲がよくなっていき、雰囲気の良いクラスになっていった。
「浅葉くん」
空気が澄み渡るような声に反応して、部活へ向かおうとしていた僕の顔が後ろへ振り返る。
渡瀬唯香が手を振りながら駆け寄って来る。
「なに?」
「明日さー、みんなでカラオケとか行くんだけど浅葉くんも行かない?」
「明日か―」
「あれ、都合悪い?」
「大会あるんだよなあ」
「え、まだ勝ち進んでたの? バレー部」
「まだ勝ち残ってるよ」
「知らなかった。意外に強いんだ、ウチのバレー部」
渡瀬が笑った。「失礼な奴だな」と僕は大げさにため息をついてみた。
中学が違う渡瀬とは二学期からよく話すようになった。彼女は人懐っこい感じのする笑顔が特徴的で、クラスを和ませるような存在だった。
もちろん、僕も嫌いではなかった。
むしろ、大好きだった。
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