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この日は、図書室で一人勉強をしていた。
「試験期間前から勉強してんの?」
そう言って僕に話しかけてきたのは、女子バレー部の間宮美雨だった。ショートカットがいつも似合ういかにもスポーティーな女子だった。
「ああ。さすがに今のままじゃろくな大学に入れなそうだし」
「第一志望はK大だっけ。結構イイとこ狙ってるよね。フツ―に私じゃ無理だ」
「一年のときからずっと書いてきたけど、さすがに厳しい気もしてきたけどな」
「私はもう入れるとこの推薦を貰えれば充分だよ」
「部活推薦?」
「まさか。県大会三回戦敗退だよ? 指定校推薦しか狙ってない。定期試験と内申点で稼いで狙うだけ」
言われてみれば、図書室に来ているとはいえ間宮は勉強道具なんて持っていなかった。手にしていたのは小学生のときに流行った外国の魔法使いの少年少女が通う学校を舞台にした小説だった。あの小説がどこかの入試の出題範囲になったとは聞いたことがない。
「そうか。まぁどうやって大学目指すかは人それぞれだな。オレは推薦なんて狙えないから勉強してくだけだ」
「浅葉は真面目だからなー。なんか興味のないものはスルーして生きてる感じ」
「なんだそれ」
「自分が興味あるものだけ集中するけど、興味がない、どうでもいい、そういうものは周りがイイって言ってても『いらない』って言うタイプってこと」
「そうかなぁ」
「だーから、男子がかわいいって言ってる子を振ることだってできるわけでしょ?」
「は?」
「とりあえずつきあっておくか、とかそういうことにもならないあたりが浅葉っぽいよね」
勝手に納得して間宮はうんうんと頷いていた。が、僕には聞き流せない言葉があった。
「ちょっと待て。オレが誰を振ったって言うんだ? 誰のこと言ってんだ?」
「私、あの子と同じ中学で仲が良かったから知ってるの。駅舎の中で振ったんでしょ?」
「は? 一体、何のことを言って? そもそも、誰のことだよ?」
「この期に及んでしらばっくれるかなぁ……」
「いや、しらばっくれてなんか……」
「渡瀬唯香」
急に空気の澱みをかき分けていくような魔法の呪文のような名前だった。
「あの子のこと、浅葉が振ったんでしょ?」
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