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「え、いや……」
僕の思考回路がフル回転する。
僕がいつ渡瀬を振るなんてことがあったんだ。というか、いつ告白されたっていうんだ。そんなことを僕自身が知らないなんてことあるだろうか。
間宮は渡瀬と仲がいいと言った。ということは渡瀬が間宮に話したのか? 僕に振られたと。なぜだ、なぜそんなことを言ったんだ? 僕が渡瀬を振るはずがないのに!
「告白の途中で『ごめん』って遮って去ってたんでしょ? すっげー鋭いナイフの振り方だよね」
「え……あ……」
さっき間宮は「駅舎」と言わなかったか。
あれか、あの日か、あの場所か! 僕の花粉症がひどかった日、あの二人だけで座っていた駅舎の中か! いつ告白されたかなんてわからない。意識が朦朧としていたし、鼻水はひどかったし、いや、それにしても振るはずが……。
いや! あのとき僕は鼻をかむところを見られたくなくて、たしかに「ごめん」と言って立ち上がったはずだ。あのときか!
「まぁ、今はもうあの子も立ち直ってるみたいだけどね」
「そ、そうなんだ……」
二年になって、クラスが離れ、棟も離れたことで疎遠になったのだと僕はこの一年間思ってきたが、何のことはない。僕が渡瀬を振ったことになっているせいで疎遠になっていたのか。
なんてことだ。全部自分のせいだったんじゃないか!
こんなにも自分の中で、自分が葛藤し、いろんな妄想をしたことがあっただろうか。ああ、僕はなんていうことを……。
いや、それもこれもすべてはあのとき桜の花粉症が全力で発動していたせいじゃないか。桜の花粉症さえ発動していなければ……今頃、どんな二年生を過ごしていたんだろう。
何にも色恋沙汰に縁のなかった一年を悔やみながら、僕は思った。
やっぱり、桜なんて嫌いだ。
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