9.時が止まってしまえばいいのに

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 なぜだろう、急に料理が味気なくなった。砂を噛んでいるようだし、胃が縮んだみたいに上手く呑み込むことが出来ない。それから、胸の辺りがもやもやする。 「……美味しくありませんでした?」 「い、いや……」  箸が止まったのを見咎められ、秀は慌ててごまかすように丼をかき込んだ。 ■■■ 「布団が足りねえ……」  その失態に気づいたのは、草木も寝静まる二十三時頃のこと。早々に就寝しようとした矢先のことだった。準備は万全だというからすっかり失念していたのだ。近所に借りに行こうにも、もう夜更けだ。迷惑になる。もう窓も戸も閉め切ってクーラーも付けて、ゆったり眠るつもりだったのに。  台所からミネラルウォーターをあおりながらやって来た雪彦に視線を投げて、大きくため息を吐く。緩いシャツとパンツを着ただけなのに、モデルのオフショットのような華やかさがある。少しだけ見惚れたのは内緒だ。 「お前、ベッドで寝ろよ。布団一組しかねえから」 「え? 俺は床で大丈夫です。ちゃんと家主が使ってください」 「いや身体痛いだろ。それにここ、家の中なのに虫が入ってくるし」  雪彦は少し顔をしかめたが、すぐに首を横に振った。 「一晩ぐらいなら大丈夫です。では俺はここで」  雪彦は、テーブルを挟んだテレビの向かい側を指差した。鋼の意思を宿した瞳に射抜かれ、秀は苦虫を噛み潰したような顔をする。やはり、客人を床で眠らせるなんて抵抗がある。これが友人同士の集まりならば話は違うのだろうが。 「……けどさあ」  煮え切らぬ秀を見て、雪彦が首を傾げた後、「ああ」と目を細めた。
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