9.時が止まってしまえばいいのに

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「もしかして、添い寝してほしいんですか?」 「ばっ……」  揶揄うような視線に腹の底がかっと熱くなった。  それでもどうにか言葉を引っ込めたのは、最近になってようやく、雪彦という男のやり口が分かってきたから。 「……それでいいよ」 「へ?」  唖然とする雪彦を黙殺して、ベッドに転がった。  秀は昔から、単細胞で短気だった。頭に血が上ると周りが見えなくなるし、嫌な思いをしても良いことがあるとけろりと機嫌が直る。雪彦はそれを利用して——自分が悪者になろうとも、秀を挑発して、上手くコントロールしてくれていた。雪彦に口先で勝てなかったのも、勝ったはずなのに負けたような気分が付きまとっていたのも、そのせいだった。  今度はそれを、秀が逆手に取る番だ。 「電気消せよ。明日も早いし寝ようぜ」 「……俺も、そこ、いいんですか?」  立ち竦んだ雪彦が怪訝な面持ちで問う。手ひどく拒まれるのではないかとも思ったが——そういう困惑の仕方ではないようで安堵する。まあ、ここまで来たら嫌なら嫌で構わないのだが。 「良いっつってんだろ。……来いよ、早くしろ」  少し拗ねたような言い方になってしまった。ごろん、と彼に背中を向け、寝転がるスペースを空けて返事を待つ。それでも男二人が寝るには、きっと狭い。まるで告白したときみたいに、胸がどきどきした。 「……では、お言葉に甘えて」
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