9.時が止まってしまえばいいのに

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 雪彦が苦笑した気配と共に、ぱっ、と電気が落ちる。身を固くした途端、ベッドが緩く軋み、衣擦れの音が響いた。成人男性二人の身体はやはりシングルベッドに収まりきらず、秀はさらに端に身を寄せて、雪彦は何度も寝返りを打つ。どうしても身体が触れ合って、冷房があるにしても暑苦しいことこの上ない。 「お前、もうちょっと縮め」 「無理です。秀さんこそ寝相は良くなったんですか? ベッドから突き落とされるのは流石に嫌ですよ」  普段より甘い雪彦の息遣いが、すぐ後ろから聞こえる。 「懐かしい……ですね……。ぜんぶ。一緒の布団で眠るのはもちろん、秀さんの体温と、秀さんの匂いと——」 「変なこと言うなバカ」  慌てて遮ると、既にまどろみに落ちかけた雪彦の声が途絶えた。それ以上は心臓が口から飛び出てしまいそうだ。  このままではいけない、と一先ず瞼を閉じた。けれど暗闇の中に雪彦の顔がちらついて、眠気が訪れるどころかさらに目が冴えていく。たぶん、普段と体勢が違うのも影響している。こんなところで自分の繊細さを知る羽目になるとは。 「……」  落ち着かない。雪彦はそろそろ眠っただろうか。思い切って身を捩ろうとした時——。 「……眠れないんですか」 「……まあ」 「俺もです」  囁いた雪彦が、深呼吸するのが聞こえた。 「ねえ、秀さん。聞いてもいいですか。嫌なら、答えてくれなくていいんです」 「なんだよ」 「秀さんがあの家を出たのは、やっぱり俺のせいなんですか」 「…………」 「俺、何かやらかしてしまったんでしょうか」 「……」 「そうなんですね」  ――答えなくていいなんて嘘じゃねえか。
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