10.ほどけてまじわる

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10.ほどけてまじわる

 祭りを翌々日に控えた島内は、活気あふれる熱と喧噪に包まれていた。  商店街の北端に(やぐら)が組まれ、店の前にイカ焼きとか金魚すくいとか、屋台が立ち並び始める。島民個人が機材を調達して祭りの日限定でそれらしい店を出すので規模は小さく、数メートルおきにぽつぽつと散在するさまは閑散としていて過疎化を思わせるが、夜になって灯りがともされはじめると一変して幻想的な雰囲気を(かも)し出す。  『須子島観光協会』の法被を羽織った(すぐる)と雪彦もその手伝いに駆り出されていた。もっとも、実働は雪彦の担当で、秀は準備風景を撮影するため一時的に顔を出したに過ぎないのだが。  シャッターチャンスを求めて絞られたレンズが、威勢のいい港の男たちに混じって動き回る雪彦をとらえる。 「楠田くん、そっち持ってくれる?」 「はい。あ、俺がそちらにまわります」 「あ~すまんね!」  連日、強い日差しに晒され続けた雪彦の肌はうっすらと日に焼け、透けるような白さを失い赤みが差して上気していた。昔から日差しに弱かった。日焼け止めを塗らなければ一瞬で日に焼けて黒焦げになる秀に対して、雪彦の肌は火傷したように真っ赤に腫れて皮がむけてしまうタイプだ。  その額や首筋には玉のような汗が浮いて、息が上がっている。頬に張り付いた長めの黒髪が、何度はらいのけても同じところにくっつくものだから、少しずつ苛立ちが募っていく様子が手に取るようにわかる。普段ぼんやりした彼の瞳が感情を帯びて光が灯ると、端正な顔立ちに凄みが増して背筋をぞっと這うものがある。
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