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水も下たるいい男というやつだろうか。風呂上りとか、そういった行為の後を連想させる――というところまで考えて、秀は頭を振って邪念を振り払った。
雪彦が家に滞在するようになって一週間ほどが経過した。彼との関係にも、生活にも、特に変化はない。雪彦の食事や存在が、秀の生活の狭間に自然にするりと入り込み馴染んでいる状況だ。食事一つをとっても秀の好みを優先したり、家事を率先して行ったり、単なる同居人にしては少々世話を焼きすぎるところがあるが、それがまた彼らしいと思ってしまう。
彼がどうしても譲らなかったのは、毎晩の添い寝だった。翌日には布団を一式用意できたのだが、「冷房が寒い」とか「虫がいる」とか理由をつけてベッドに入り込んでくる。そのくせ秀が床で寝ることは許さないというのだから、本当に良く分からない。一度目に断固拒否しなかったのが裏目に出たようだ。
——そんな生活も、もうすぐ終わるけど。
最近はそのことばかりが脳裏を過って、気が塞ぎがちだった。女性らしい勘を発揮した山地が見かねてアドバイスをくれたのは、今朝の事だ。
『何があったのかは聞かないけど、後悔しないようにね?』
驚くほどの的を射た言葉だったが、耳に痛いばかりで実行には移せそうもない。
後悔を塗り重ねるのは秀だっていやだ。でもそれ以上に、拒絶されたり、真実を知ることの方が恐ろしい。雪彦が怖い。今すぐにでも距離をおくべきなのに、もう少し傍にいてもいいかな、なんて甘ったれたことを考えて繰り返す。
そんな弱い自分が嫌になり、また思考がループする悪循環に陥ってしまっている。
「……くそ、ダメだな」
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