10.ほどけてまじわる

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 秀はその広間に横たわり、天井の接触の悪い蛍光灯を眺めたり、暮れなずむ空を見上げたり、ともかくぼうっとしていた。  点滴と経口補水液で体調は回復しつつあるが、情けなさと申し訳なさで気分が重く沈んでいる。 「秀さん、本当にもう大丈夫ですか」  開け放たれた縁側から生ぬるい風が吹き込み、吊り下げられた風鈴がちりん、と鳴る。  普段以上に言葉の減った秀を見た雪彦が心配そうに見詰めてくる。 「……ああ」  昼間——軽い熱中症で倒れた秀が際に古くなっていた梯子にぶつかり、連鎖的に足場の一部が崩れたのだという。  点滴のおかげか、頭の芯がぐらつくような感覚はもう無い。  秀を降りそそぐ工具から庇った雪彦は、足に怪我を負って治療を受けた。ふくらはぎを真新しい包帯で覆われているものの、二人とも奇跡的に大きな怪我は無く、最低限の打身と擦り傷で済んだようだ。明日になっても痛むようであれば、本土できちんと検査を受けるよう指示されている。  備品の整備や注意を怠ったとして、祭りの実行委員会の人々には謝罪を受けた。注意不足だったのは秀の方だし、体調を崩したのも秀の方だったのだから責めるつもりなんて毛頭なかった。それより、皆が楽しみにしている祭りにケチをつけてしまう形になったのがとても辛くて申し訳がない。 「カメラ、大丈夫でしたか。高価なものでしょう」 「…………平気」  雪彦は机の上にきちんと並べられたカメラとレンズの入ったカバンを一瞥した。  秀は、何かを取り繕うように喋る雪彦に胡乱な目を向けた。自分はこれまでにないぐらい怒っているんだぞ、というポーズを見せてやる。
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