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「ほんとさあ……! 忘れろって言ったのはお前だろ⁉ なのになんでこんな、優しくするんだよ!」
目頭が熱い。期待させないでほしい。本当は、こんなことが言いたいんじゃない。素直に礼を伝えて、でも無茶はしないでくれと心配していることを分かってほしい。自分なんかを守るような真似をして、お前が大怪我したらどうするんだと憤っていることも。
感情がぐちゃぐちゃに絡み合って、溢れるのはどうでもいいセリフばかり。
簡単な言葉さえうまく並べられない自分がもどかしくて、ひどく情けない。
「だから……え、ど、どうして泣いてるんですか」
「お前のせいだろ⁉ お前が全部、ぜんぶ、ワケ分かんないことばっかするから! あの時だってそうだぞ? お前に、嫌われたり、憎まれたりしたらと思ったら耐えられなくて、俺は」
「……なんの話ですか」
見開かれた雪彦の濡れた瞳に、泣き叫ぶ自分のみっともない姿が映り込んでいるのを見て、秀ははっと息を呑んだ。
ぶわりと雪彦の纏う雰囲気が変わる。
「いつ? どうして俺があなたを嫌うんですか。そんなこと有り得るわけないでしょう?」
「は、え、何だよ落ち着けって……」
強く両腕を掴まれたかと思うとがくがくと揺さぶられ、怯んで勢いが弱まる。
「放せよ……! 高校の夏祭りのとき……、急にキスしてきやがっただろ」
「は……え? え?」
数秒の間、静かにまばたきをした雪彦が愕然とした様子で口ごもる。
「……秀さん、あれが原因で俺を捨てたんですか」
「ああ? 捨てるとかじゃ」
「捨てたでしょう。それでなんです、まさか、そんなにキスが嫌だったんですか」
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