10.ほどけてまじわる

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 雪彦は視線を彷徨(さまよ)わせた。動揺している。あの雪彦が。  夜の虫の声がうるさい。同じぐらい、心臓の音もうるさい。  少しの間まごついてから、ため息のような声を漏らして(ささや)く。 「好きなんです。秀さん、あなたのことが」  ——何を言ってるんだ。 「……なんで?」  驚きのあまり涙が止まって、口から飛び出たのは間抜けなセリフだった。  それを聞いた雪彦が意外そうに眼を丸くして、しっかりと秀に目線を合わせて顔を覗き込んでくる。 「……それだけ、ですか?」 「は?」 「嫌じゃないですか、こういうの」 「…………あれ、いや」  どう答えたらいいか分からずに硬直する秀に、雪彦は「愚問でしたかね」と困ったように笑った。  秀の丸く瞠った瞳から、ぽろりと最後の一滴がこぼれ落ちる。それをすくいあげた雪彦は、また考え込んだ。 「さあ……最初は弟みたいなものでしたが、放っておけないなと思っているうちに、いつの間にか。それを恋心だと自覚したのは、俺だけ中学に上がって離れてる時間が多くなってからだったかな」 「……」 「でも、あんなに尽くしたのに、あなたは俺を捨てた。それだけは許せなかったんです。傍においてくれると約束したのに、あなたは俺のいない土地に居場所を見つけて——俺なんて、もういらないんだと思って」  一緒に海を見下した時はそのことを言ったのだと、雪彦は語る。 「……分かりづらいんだよ、お前」  てっきり、彼を召使いのように扱っていた件だとか、沢島の仕打ちのことだと思っていた。
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