10.ほどけてまじわる

9/17
前へ
/85ページ
次へ
「秀さんこそ。……初日に俺が全て無かったことにしてくれと言ったのは、その上で、もう一度仲良くなるチャンスが欲しかったからです。まあ、露骨に避けられるものだから、途中からは諦めて、あなたと最後の思い出を作る方向にシフトしましたが」  細められた雪彦の双眸は、秀越しに別の物を見ている。それが幼い日の二人の幻影だと気づくのに、そう時間はかからない。 「弱いくせに虚勢を張るあなたがいじらしくて、ずっと好きでした。俺の人生には、あなただけだったんですよ。……あなただけが、世界で俺を必要としてくれた。血の繋がった兄にさえ、俺を奪われたくないのだと言ってくれた。あの時の俺がどれだけ嬉しかったか分かりますか?」 「……」 「話が逸れましたね」  ずい、と雪彦が身を乗り出して顔を寄せてくる。身を引く暇はなく、息を呑んだ。 「あの日、口づけたのは——あなたが、今みたいに物欲しそうな顔をしていたからです」 「っ……もっ……」  ——なんだこれ。  ——雪彦に、告白されている。  やっとその事実を飲み込んだ秀の顔に、ぱっと紅葉が散った。  鼻と鼻の先が触れ合いそうな距離に、端正に整った不器用な男の顔がある。 「も、物ほしそうな顔なんて、してねーよ」 「しています。照れたような焦ったような。……ねえ秀さん、よく分からないけど、俺の事、別に嫌いじゃない、ってことで合ってますか? それとも、これも俺の思い違いでしたか」  秀は雪彦から視線を逸らし、小さく首を横に振る。視界の端で「どっちなんですか」と雪彦が苦笑交じりに呟いた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加