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「嫌いじゃない。嫌いなわけないだろ……。俺はさ、お前の方がデキるヤツだから、俺なんかの言うこときくのが可哀想で、俺自身もなんかみじめで腹が立って……その、高校の頃とか、いじめみたいなひどいことしたの、謝る。ごめん」
ただ悪意を否定しただけなのに、変に胸が高鳴って煩い。まるで、告白に返事をしたみたいだ。
「いじめ……ああ、そういうプレイだと思っていたので、何も問題ありません。……ねえ秀さん、秀さんは、俺のことをどう思っていますか。この反応は、自惚れても良いんですか?」
なんだかものすごいセリフが吐き出されている気がするが、理解が追い付かない。
ともかく雪彦は――相当自分のことが好きらしいということだけは、伝わった。
「ねえってば」
ひとつ瞬いた雪彦の瞳が、濡れたナイフのような危うい輝きを放つ。秀は何度か口を開いたり閉じたりを繰り返し、必死に言葉を探して、自問を繰り返した。
「……——その」
嫌いじゃない。けれど、この感情は『好き』の一言で片付くほど綺麗で、単純なものではない。憧憬や敬愛にひがみや劣等感がまとわりついて形を変えた、執着や依存などと呼ばれるものではないか、と思う。
「分からない……けど、お前なら嫌じゃ、ない……と思う。色々、あの時の、キスとかそういう意味なら……たぶん、分かってたらお前から逃げたりしなかったし」
「本当に?」
落胆を滲ませた雪彦の表情が、瞬時に明るさを取り戻す。
——ああ、こいつ、こんなに分かりやすいヤツだったんだな。
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