10.ほどけてまじわる

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 思えば卑屈な感情を抱えて雪彦を避けるようになってから、彼の顔を直視出来なくなっていた。彼を不愛想にしたのは、勝手にそう思い込んでいたのは、秀だった。 「ねえ、秀さん。もう一度キス、してみてもいいですか」 「……わざわざ聞くな、ぅん……!」  言い終えぬうちに、乱暴に唇を塞がれた。上唇を丁寧にほぐすようについばまれたことに驚いているうちに、押し入ってきた舌が形を確かめるように歯列をなぞる。熱に浮かされた雪彦の眼を見ていたらあまりの熱さに溶かされてしまいそうな気がして、慌てて眼を閉じた。  蠢く舌が、粘膜と粘膜が擦れあうたび、背中がぞわりと甘く粟立った。 「ふ……、んっ、ぁ……!」 「は……」  されるがままの秀の頭を、雪彦の片手がぐいっと引き寄せる。呼吸の間さえ惜しむように、たっぷりと唾液をまぶした舌と舌が絡み合う。口内を貪られ、蹂躙される。全てを食らおうとするかのような苛烈さに怯える秀の口もとを、どちらのものともつかない唾液が伝い落ちた。 「……ん」  名残惜しそうにゆっくりと舌を引き抜いて、雪彦はぺろりと舌なめずりをした。いつになく熱に浮かされたような眼をしていた彼を見ても、やはり嫌悪感は湧かない。むしろもっとしてほしいとさえ思う。  雪彦になら、全てをあげても、良い。むしろ今を逃せば、雪彦はもうこんな風に触れてはくれない気さえした。 「なんて顔をしてるんですか……。ここ数日、必死に手を出したいのを抑え込んで、あんな地獄みたいなおあずけに耐えてきたのに、歯止めが利かなくなるじゃないですか」  ――こいつ何を言ってるんだ。
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