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11.哀しきあの夏の思い出よさらば
寄せては返す細波を聞きながら、朝焼けの浜辺を、秀と雪彦は静かに並んで歩いた。
ぽつぽつと星々の散らばった紫色の朝空は、やがて澄んだ青へと変わるだろう。
まだ薄闇のけぶる時刻に集会所を出た二人は、海へと足を運んだ。
二人が再会した浜辺だった。
「お前さあ……加減しろよ……すっげー腰いてえ……」
「俺は最初に忠告しましたけど」
「限度ってもんがあるだろ!」
「煽りまくる秀さんが悪いんじゃないですか。自分が何を言ったか覚えてます? 忘れたなら教えましょうか」
「や、やめろ! 思い出したくない!」
真っ赤な顔を両手で覆った秀を見て、雪彦がふっと口もとを歪めた。
本当に意地の悪い男だな、と思う。惚れた弱味かどれだけひどい目に遭っても嫌いになれそうにない。
「……ねえ秀さん、結局、どうして俺を捨てたんですか?」
「あ?」
「色々と勘違いを拗らせてたのは分かったんですが、それはそれで腑に落ちなくて。別に秀さんが家を出なくても俺を追い出せば良かったじゃないですか。っていうか半年も待てば俺はあの家を出たわけですけど」
「捨てたっていうか、逃げたっていう方が正しいんだけどな」
「……逃げた?」
雪彦がふいに足を止めた。斜め後方を見やると、神妙な面持ちでこちらを見据える彼と視線が交差した。もう、どちらも、互いから目をそらさない。
「……俺と居ない方が、お前、幸せになれると思ったから?」
「……ちょっとまだ訳がわからないです」
「だよな、俺もどこからどう説明したらいいのかわかんねー」
雪彦に向き直り、秀は腕を組んで言葉を探す。
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