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思い当たる節が多々存在したのだろう、雪彦は顎に手をやって「なるほどな」と呟いた。
緩やかな風が二人の間を吹き抜けた。遥か向こうの水平線の果てから、鮮やかなオレンジ色の太陽が姿を見せ始める。
「俺はさ、アホだから、お前が親父たちの後継いで、綺麗な女の子と結婚して子供作って、そういう未来の方が幸せなんだろうなって思って」
——でも結局、全部、俺の早とちりだったな。
秀がきまり悪そうに言うと、雪彦は「本当に」と苦笑した。
「ああもう、ずっとすれ違ってたんですか、俺たちは」
「そうだな……意地張らずに全部話してたら、こんな色々こじれなかったな」
雪彦の将来、実家との確執、不安は消えないが、今ほど互いに寂しい思いをすることはなかっただろう。
「あの、秀さん」
「ん?」
「また、俺を傍に置いてくださいますか?」
神妙な面持ちの雪彦が、上ずった声で問いかけてくる。
当たり前のこと過ぎて、でももし違う意味だったらと思うと簡単には答えを返せずに、秀は問い返す。
誤解が溶けても互いに言葉が足らないままだった。
「傍に、って」
「こうしてあなたに再会できて、確信しました。俺はあなたと共にありたい。俺は、あの会社には入りません。あなたのいない場所に何の未練もない。手に職をつけてあなたを養って、あなたの夢を応援します。だから——どうか俺を傍においてくださいませんか」
どこまでも、あくまで下手に、これまでに見たことないぐらい不安そうな呟きが、潮騒に溶けて消え入る。
許可なんてとらなくてもいいだろうに。
これまでのツケだろうか、どうしても言わせたいらしい。
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