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遠い眼をしてはにかむ秀を、雪彦が眩いものを見るような眼で見て、微笑みを返してくれる。
ずっと一人で留守番だった雪彦。この町が気にかかったのも必然で、地元を離れて過ごす彼に、母親の故郷を彼自身に見せたいと思ったからなのかもしれない。
でも、もう、雪彦のためだけの写真は要らない。二人で共に見た景色を、それぞれの記憶と瞼に焼き付けていけばいいのだ。
今なら、彼と一緒なら、自分の思い描くままの写真を撮ることが出来る気がする。
「今度は俺自身を連れて行ってください。あなたが俺に見せたかった景色のある場所に」
「ああ、一緒に行こうな!」
夜明けが来て、砂浜がほのかに赤く染め上げられてゆく。
伸ばされた雪彦の腕にとらわれながら、幸せを目いっぱい噛み締めて頷いた。
実家のこと、雪彦と自分の将来のこと、不安はまだ少し拭えない。
でも、これから先はずっと雪彦が共にいてくれる。それだけで何もかも、どうにか乗り越えていける気がする。
ここに至るまでがそうであったように。
もうきっと、あの夏の日を思い起こして、後悔して、自己嫌悪に陥るようなことはない。
雪彦の顔も実家のことも、大事な思い出の一つとして受け入れていける。
少しずつ夜が明けていく。
二年の時を経て再会した二人は、今度はどちらも逃げ出すことなく、並んで同じ速度で歩み始める。
再会の地で、二人の明るくて前途多難な”これから”が、始まる。
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