大きな桜の木の下で

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肌寒い空気の上から、ほんのりと温かい日差しが掛かる。 何気なく見上げると、街路に立ち並ぶ桜の木の枝にぷっくりと膨らんだ蕾が幾つも連なっていた。 (もうすぐにでも咲きそうだな) 花開いた暁には、この大通りは多くの人で賑わうことだろう。 桜の美しさに見惚れ、笑顔で写真を撮るだろう。 自分の画像も入れ込んで、更に綺麗に見えるように加工して、SNSにでも載せるのだろう。 想像するだけでうんざりする。 (嫌な季節がやってきたなあ) 人目を憚らず大きなため息をつく。 満開の桜を思うと、俺は憂鬱な気分になるのだ。 それには明確な理由があった。 (今年もやるんだろうな。花見) 美しい桜を眺めながら気心の知れた友人と食事をする花見は楽しいものだと思う。 しかし俺の場合は、会社の上司や先輩を相手にひたすら気と労力を消費するだけの、辛いイベントなのだ。 会社の近くに桜の名所と呼ばれている大きな公園がある。 社内花見は毎年そこで行われている。 今年もそうなることだろう。 休日を潰して、上司を接待しなければならないのだ。 これも仕事の一環だ。残業代はおろか、給与すら発生しないけど。
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