1人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話
今日は星がやけに綺麗に輝いて見える夜だね、グレーテ。
…え?空は曇りだって?何言ってんだよ。
こんなにも世界は広いじゃないか。
どこかで、そう声が聞こえた気がした。
はぁとため息をつく。
俺の名前はグレーテ、14歳のまま時が止まった命の一つだ。
突然だが、俺は今日死んだ。
…いや、正確には今日も死んだ。
俺はもう随分ここにいて、薄暗いカビのついた壁をなぞっている。
いつからこうしているのか、どうしてここにいるのか、
何故自分がグレーテなのかも覚えていない。
それぐらい、ずっとここにいるんだ。
ここは八畳間ぐらいのどこかの個室で、電気は割れたランプがひとつだけ。
湿気のある部屋で、青黴が沢山白い壁を蝕んでいる。
大きな窓と、一つの椅子、それに見合った小さな机がひとつ。
それだけのなんともシンプルな部屋だ。
毎日起きて、寝て、起きて、窓の外をなんとなく眺めて
机に向かう。そんでまた寝る。
そんななんの変哲も面白みもない平和な毎日を過ごしている。
…唯一、変化があるものと言ったら……そうだな。
窓の外の景色、だな。
窓の外はどういう原理なのか分からないが
毎日景色が変わる。
時に人通りの多い街中だったり、
時に馬やウサギがのんびりと太陽を浴びている蒼々とした草原。
時には知らない病院だったり、
どっかのトイレだったりもする。
この世界がどうなっているのか、所謂誰かの記憶に残って
生き続ける故人側の視点なのかはわからない。
ただ、毎日ぼーっと眺めている。
それだけだ。
…けど、窓の外を眺めているといつも胸の奥の方から何か聞こえてくる。
さっきの声だ。よく分からないが、あいつは決まっていつも
窓の外を眺めている時や夢から覚める時にああして声をかけてくる。
聞いてもないのに沢山喋り、一人で笑っては
いつも寂しそうな瞳を浮かべて空を見上げる。
彼女の名前はエリーだ。
別に全然意味はない。俺が勝手に適当につけたものだ。
エリー、なんて日本で言うところの太郎や二郎、花子といった
テンプレート的な名前だし…どうせ暇だからな。
エリーは沢山話しかけてくるくせに、こっちから話しかけても
うんともすんとも言わない。
おーいと呼びかけても、エリー、と名前を呼んでみても
全然答えない。
なんなんだ。そっちは人が寝てても構わずベラベラと
意味のわからないことを話しかけてくるくせに…
まぁいい。そんなことは置いておいて、
今日も窓辺に椅子を移動させて座り頬杖をついた。
最初のコメントを投稿しよう!