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部屋に入ると、太郎の緊張はますます増した。どことなく志摩から妖艶な雰囲気が漂ってくる。畳の上に向かい合って座ると、むずかゆい思いが先に走って、太郎はうまく言葉が出なくなった。
志摩は俯いて畳を見ていた。その姿を見て、太郎は何か話さねばと強く思って、口を開きかけたが、それを制するように志摩が顔を上げた。真っ直ぐに自分を見つめる志摩の目を見て、再び太郎は言葉を無くした。代わりに志摩の口が開いた。
「太郎さん。初めて会ったときから、あなたに縋れば、私の人生は変わると思いました。だから梨音さんに言い寄られても、とてもその気には成れません。女の私からこんなことを言うのははしたないと思われるかも知れませんが、私はあなたが好きです」
思ってもみない言葉だった。志摩の気持ちも自分あると分かっただけで、太郎の心は踊り出しそうになった。
「志摩さん、俺の気持ちも同じだ。俺も初めて会ったときからあなたを――」
太郎は感極まってそのまま、志摩を抱きしめた。志摩の身体からは、頭が痺れるような香りがした。太郎の身体は熱くなって、もう止まらなくなった。
志摩を畳に押し倒し、身体の上に重なろうとしたとき、志摩の寂しげな顔に気づいた。
「どうしたのだ。嫌なのか?」
志摩は違うとばかりに首を振る。しかし顔は悲しげなままだ。
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