224人が本棚に入れています
本棚に追加
「何か心配事があるのか?」
太郎が優しい声で尋ねると、志摩がコクンと頷く。
「話してみよ」
太郎は身体を離して、志摩を起き上がらせた。志摩は俯いたまましばらく躊躇して考えていたが、何かを決心したように顔を上げた。
「私はいつも逃げ続ける人生でした。ここでなら自分の足で立っていける。そう思っていたのに、また争いの種を巻こうとしている。ここであなたに愛されても、最後は出て行くことになる。そう思うと悲しくなったのです」
「そんなことはさせん」
太郎はカーッと熱くなった。
「太郎さんはそう思っても現実はそう成ります。梨音さんはともかく、碧さんは兄弟の争いを招いた私をきっと許しません。だって、あの方もあなたをお慕いしているのですから」
志摩はそう言って顔を背けた。そうやって一歩引くところが、彩恵を思い出させた。太郎は彩恵を死なせてしまった悔しさで、身を切られそうになった。志摩は絶対に幸せにしてみせる。その思いが身体を突き動かした。
「今から兄上と碧に話そう」
太郎は志摩の手をとって立ち上がった。
「嬉しい。私がここで堂々と暮らせるようにしてくださるのですね」
「もちろんだ。必ずそう成るようにするから安心しろ」
最初のコメントを投稿しよう!