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「どうした。お前は最初の一撃で首を斬られ死んでいた。その後も両腕と両足を斬られている。そんなことだから女一人守れぬのだ」
「うるさい」
太郎は身を捨てて、梨音に体当たりしようとした。もちろん斬られるのは承知の上だ。急所を守って、血だらけの身体でぶつかって、一矢報いることができれば、腕や足を失っても悔いはないと思った。
だが次の瞬間、反対側に身体を跳ね飛ばされていた。梨音は平手一つで、全体重をかけた太郎の突進を跳ね返したのだ。
太郎は大地に叩きつけられた全身の痛みを堪えながら、彩恵が死んだ本当の原因に気づいた。全ては自分の慢心だった。敵地とも言える大坂城にいながら、自分の強さの限界を知ることもなく、周囲の状況確認を怠り、いざというときに取るべき策を考えずにいた。ただ、彩恵との甘い生活に溺れ、愛する女を守ることを怠った身勝手な愛が、彩恵を死に至らしめたのだ。
そんな自分がまたしても身勝手に、志摩との甘い生活を夢見ている。例えそれを手に入れても、悲劇が再現するのは目に見えていた。それに比べて梨音は強い。これほどの強さを手に入れるために、どれほどの修行を積めばいいのか、推測することすらできなかった。
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