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しかも梨音は国を、そして勝悟の理想を守るためだけに、苦行を重ねて強くなったのだ。
太郎は完全な敗北を察して、戦意を無くした。
「もうあきらめたのか。この親不孝者が。力で及ばねばなぜ考えぬ。知恵は力に勝るこそ、私たちの父勝悟の口癖であったはずだ」
太郎が項垂れ、自分の未熟さを認めようとした瞬間、志摩が恐るべき速さで碧の背後に回り、その首筋に匕首を突きつけた。
「まったく、本当にダメな男だ。真野勝悟の息子だと思って、期待した私が馬鹿を見た。真野梨音相手に正面から武力で対するなんて、甘ちゃんもいいところだ」
志摩はそれまでの上品な佇まいをかなぐり捨てて、太郎を口汚く罵った。
「ようやく正体を現わしたか。この雌狐め」
「おっと居合いはなしだよ。私を斬った瞬間、私の武気は火を放って、この女もろとも火だるまさ」
勝ち誇ったように語る志摩に、梨音は苦笑いする。
「いい調子だな。どうだ太郎、変化の術が解けて真実が見えたか」
太郎は唖然としていた。さっきまで彩恵の生き返りのように見えていた志摩が、ただ美しいだけの下品で凶悪な女に変わった。
「私はどうしたのだ。なぜ、こんな」
あまりの志摩の変わりように、太郎は混乱していた。
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