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その姿を見て、梨音はホッとしたのか笑顔が浮かんだ。
「おかげさまで、太郎もお前の正体が分かったようだ」
「何を笑っている。この状況を理解できぬのか。まあ良い。この女を殺せば全てが終わる」
「よせ」
太郎の叫びが虚しく響く中、志摩の匕首が碧の首を掻き切ったように見えた。
ところが血飛沫が上がらぬどころか、碧の首筋にはかすり傷一つついてなかった。
「頑張ったお前には申し訳ないが、お主程度の武気では、硬化の術は破れぬさ」
梨音が気の毒そうに志摩にカラクリのネタを明かした。
「硬化の術……」
太郎は体術の師が風魔の技に全ての武気を身体の一点に集中し、鉄よりも固くする術があると語っていたのを思い出した。
志摩は「ちくしょー」と叫びながら、何度も匕首を碧の首に押し当てるが、やはり傷一つつかない。志摩が他の場所を刺そうと匕首を振り上げた瞬間、碧は拘束する手をすり抜け、梨音の傍に立った。
人質に逃げられ、焦った志摩は逃げだそうとしたが、素早く梨音に背を斬られて、そのまま火に塗れた。肉が焼けていくその姿は、自分の武気で自殺した形に見えた。確かに勝ち誇っただけの威力を示し、業火は志摩の骨まで焼き尽くして消えた。
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