226人が本棚に入れています
本棚に追加
/599ページ
「やはり死をかけた武気は数倍に強まるようだ」
その火勢の強さに梨音は思わず呟いた。
「あの、あなたは本当に碧ですか」
碧が風魔の奥義を使えることを不思議に思った太郎が聞くと、碧だと思った女は桔梗に姿を変えた。
「義姉さん」
太郎は呆気にとられた。
「向こうが騙しでくるなら、こっちも騙しよ。どう、目が覚めた」
「はい。すいませんでした」
「どうやら、徳川は本気みたい。今こそ頑張ってる碧を助けてあげるのが、幼馴染みの役割でしょう」
桔梗にやさしく窘められて、太郎はコクリと頷いた。
「じゃあ、こんなところでグズグズしてないで、さっさと碧のところに行きなさい」
太郎はバネ仕掛けの人形のように、碧の元に走り出した。
代表控え室で碧は、一人黙々と政務を執っていた。その集中力は、太郎が入ったのにも気づかぬほどだった。護衛の風魔忍は、太郎なので何も言わずに通していた。
碧とは長いつきあいだ。痛々しいまで仕事に集中しようとしている姿を見て、太郎との諍いで傷ついた心を癒やすためだとすぐに分かった。
今なら今朝の言葉が胸に響く。太郎を愛し心配したからこそ出た言葉だと。
「碧」
太郎は、思わず碧の名を呼んだ。
碧は手を止めて戸口に立っている太郎を見た。
最初のコメントを投稿しよう!