第16話 謀略の天才

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 天海から見て、正純は優秀な官吏であるが、父親ほどの寝技は期待できない、あくまでも表の世界で生きる男だった。 「今回の浅野、京極の配置換え、実に見事な手際でござった。この家康、まだまだ学ぶことが多いと感心した次第だ」  家康は天海に対しては、一定の尊敬を込めて接する。天海もまた、必要以上にへりくだることはしない。 「豊臣はもう、この国の貴種と成ることに同意しておる。そこさえ扱いを間違わねば、邪魔になることはないであろう。難しいのはやはり自連でしょうな」 「今回自連への加入を訴え出た伊香、高島の二郡は、元々豊臣の蔵入り地ではあるが、将来的に我が方に貰い受けようと考えていた地。琵琶湖の水運を考慮しても渡したくない」  苦悩する家康とは対照的に、天海は余裕の表情を見せていた。 「二郡と引き換えに銭を要求してはどうかの。およそ十万石の石高の土地と考え、三年の収穫分として十五万貫を要求してみては。徳川にとって最も大事なことは、対自連外交において頼りに成らぬと、豊臣に思わせないことじゃ。今豊臣は秀吉の慰霊のために、寺院建設に金をつぎ込んでおる。五万貫も渡せばホクホク顔じゃ。徳川も十万貫の銭が入る。先の実入りを先払いで貰う。悪くはあるまい」  家康の顔が明るくなった。
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