第16話 謀略の天才

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「うむ。いい落とし所じゃ。今後の先例にも成るのう。それで纏められるか」 「元より勝算有っての提案じゃ」  天海の自信満々の顔を見て、家康は久々に高笑いした。  自連の交渉人は石田三成だった。天海は、秀吉の懐刀と言われた男の才知を確かめられると、心が躍る気がした。  最初に口を開いたのは三成だった。 「時間をかけても仕方ないゆえ、端的にお話しする。二郡を譲渡いただく代わりに、銭十五万貫をお渡しする条件でいかがか」  三成の出した条件が、家康と話していたのとピッタリ同じ額だったのに、天海は驚いた。 「どうやって十五万貫を弾かれた」  天海は驚きついでに算出根拠を尋ねた。三成は特に考える間もなく、スラスラと説明を始めた。 「二郡の石高はおよそ十万石。三年分の収穫高を銭で先買いするとして、この額を弾きました。波の多い収穫高を先物買いするわけだから、これ以上求められるというなら、銭での取引はなしとする。銭以外の案があるというならお聞きしましょう」  取り付く島のない答えに、天海は一気に交渉熱が冷めた。代わりに三成の顔を見つめ、いきなり笑い出した。 「何がおかしいのか。銭での譲渡の是非を答えられよ」  三成は天海の笑い声に動じることなく、怜悧な表情で話を進めようとした。
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