第16話 謀略の天才

5/5
226人が本棚に入れています
本棚に追加
/599ページ
 失敗の一番の原因は、民とは本来自分勝手で強欲な者であることだ。他人を羨み、自分の不利益は全て他人のせいにしたがる。  家康はそうした民の本質を見抜き、封建制を徹底することで、社会の安定を図ろうとしている。その方法はある意味正しい。うまく作り込めば百年、二百年という長い期間政権は安定し国が乱れることはないだろう。  ただしそういう国家は外敵に脆い。天海は同様の例を隣国に見た。最終的に明という大樹に負ぶさって生き延びる。それが競争を放棄した国の辿る末路だ。その意味では国はいつも仮想敵国をおいて、強い力を持ち続ける必要がある。  自連がもう少し弱ければ、両者はいい関係に成っただろう。だが全てにおいて自連は徳川を圧倒している。難しい民の制御を、教育と驚異的な科学技術の発展でうまく行っている。今のままでは完璧な国ができあがってしまい、封建君主は徐々に駆逐され、最終的には帝ですら不要とされるだろう。それでは裏切り者の汚名を着て、魔王を倒した自分はただの道化と成り下がる。  強大な敵が立ち塞がったとき、戦人は相手の弱点を見極め、徹底してそれをつく。つながれに仕掛けた謀略から、天海には自連の弱点がはっきりと見えた。後はそれを徹底するだけだ。  狙うはこの近江と自連の本拠駿府。上杉や毛利の処断はその後で良い。  天海は残り少ない寿命をかけて、打倒自連を胸に誓った。
/599ページ

最初のコメントを投稿しよう!