第17話 反政府の輩

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 批判のやり玉に挙げられている長安は、愚痴りながら舌打ちした。 「まあまあ、こんな一文にも成らない集会に、呑気に参加できるということは、我が国が平和で政治が上手くいっている証拠ではないですか」  勘定方を務める青沼忠重が、わざとのんびりした口調で長安を慰める。 「しかし移民した者たちが休む間もなく働いてる中で、こういう集会に参加している自連生まれの若者たちは、ますます成功の道から遠ざかってしまう」  一代の豪商友野宗善の跡を継いで自連の議員になった、友野康三の妻八重が将来を案じて眉をひそめる。  皆同じように思っていたのか、議員たちの間に沈黙が走った。 「そう悲観することはござるまい。ここにいる安倍(あんべ)信盛殿も自連育ち。我が国の産業振興の旗振り役として、立派に役を務めておる」  教育と衛生を担う鵜殿氏長が、信盛を例に出して懸命に明るい未来を主張する。 「いや、信盛殿のように才ある者ならまだしも、才もないのに理屈だけ言い立て、努力しない者は確実に増えています。そう言う者は、罪を犯すことを悪いと思わぬから困ったものです」  信盛と同年代の土屋藤十郎はそう言ってため息をついた。藤十郎は母子家庭の出身で、経済的な理由から大学校に進まず、小学校を卒業後すぐに軍隊に入り災害救助などで実績を上げ、今は自連の治安方を務めている。若いにも拘わらず、非常事態にも冷静さを失わない経験の重みを、長安から高く評価されている。
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